マヒロ

シャン・チー/テン・リングスの伝説のマヒロのレビュー・感想・評価

3.5
平凡なホテルマンとして働くシャン・チー(シム・リウ)は、親友のケイティ(オークワフィナ)と共にお気楽な生活を送っていたが、ある日突然彼を狙う刺客が現れ、それを華麗な体術で退けてしまう。困惑するケイティに、かつて自分は巨大犯罪者集団テン・リングスのボスである父(トニー・レオン)に戦闘術を叩き込まれたこと、そして刺客を送ってきたのはその父であることを語る……というお話。

キャプテン・マーベル以来のMCU新ヒーロー誕生の物語。
スーパーパワーを得るというよりは、元々強い男がヒーローとしての自覚を持つまでの物語という感じで、最終盤まではあくまで「体術が凄いやつ」くらいのスケールであるというのが親しみやすい。演じるシム・リウは大作の主人公だけでなくアクションに関しても初めてだったらしいが、身のこなしは完全に様になっていて格好良かった。新顔のヒーローというと『ブラックパンサー』のティ・チャラや『キャプテンマーベル』のキャロルなど、人間として完成しきってスキのないキャラが続いていて、それはそれでヒーローらしくて良いんだけど、シャンチーのような近所の兄ちゃんみたいな素朴さが自分にとっては良い塩梅かも。
根底にあるのは父と子のすれ違いであるというところは『ショート・ターム』のクレットン監督らしい繊細さがあり、しっかり作家性も発揮できているところも良い。

走り続けるバスの中やビル外壁の足場など限定された空間で身一つで戦う場面はまさしくカンフー映画のそれで、スピーディなアクションが楽しい。一方で回想場面では武侠映画的なワイヤーアクションっぽい戦闘場面があったり、終盤には中国の神話のようなとんでも世界に突入したりと、中国・香港映画の歴史を詰め込んだような流れになっていて、しっかりリスペクトを感じられた。
カンフーって基本格闘技なので、現代のアメリカに持ってきても絵的に自然なのが強みだなと思ったり。日本で似たようなことすると『ウルヴァリンSAMURAI』みたいに刀を振り回すスーパーヤクザとか時代錯誤忍者みたいなのが出てきておかしなことになってしまうので……(向こうの人は気にしないのかもだが)。

前半のカンフーアクションが楽しかったので、後半の大スペクタクルに入ると殆ど身体的なアクションが無くなってしまうのがちょっと物足りず。せっかく出てきたミシェル・ヨーの戦闘シーンも殆ど無いのも勿体無いし、せっかくテンリングスの力をシャンチーが得ても使うのはかめはめ波みたいなよく分からない技で、トニー・レオンがやってたみたいな色んな応用技で戦う姿を見たかった。
物語進行的にも気になるところがあり、とにかくやたらと回想シーンが細切れに挟まれて、現代と過去を行ったり来たりする語り口があんまりスマートじゃないなと感じた。過去の同じ場面でも数回に分けて描写されたりするので物語が停滞している感じがして、もうちょっとここら辺まとめてスッキリさせてほしかったかも。

新ヒーローのオリジンとして、物語運びなどには極端な目新しさがあるというわけでは無いが、この男が今後どうなっていくのかというところを追いたくなるような魅力的なキャラクターの創造には見事に成功していて、良い一作目だった。

(2021.153)[12]
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