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ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバーのmのレビュー・感想・評価

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主演俳優チャドウィック・ボーズマンの病死をそのまま物語に取り入れる所から始まるこの映画は、大切な仲間だったチャドウィックへのスタッフ・キャストの弔いの儀式であると同時に、虐げられてきた民族同士の対立という重いテーマを取り上げつつ、アクション満載(そして次作のフックもある)MCUヒーロー大作としての責務も果たすという非常に難しい綱渡りを強いられる。重すぎる現実との格闘と様々なしがらみに引き裂かれ迷走し停滞しつつも、その節々でライアン・クーグラー監督はチャドウィックへの強い哀悼の感情を流石の手腕で映画に刻み込んでいく。カメラが手持ちになる瞬間にエモーションがより強く出る。
混乱と哀しみがそのまま描かれた冒頭と静かに弔うラストシーンに、この映画の全てがあると言っていい。この為に作られた映画だから、正直出来の良い映画ではないけれど個人的にはもうこれ以上は望むまい、充分やったと思う。音楽と美術も素晴らしいし。監督、スタッフ・キャストの皆さん、本当にお疲れ様でした。


それでもポストクレジットシーンに関しては、絶対無い方が良かったと思う。活劇映画としては問題が多い。アメリカやフランスの動きも後半では活かせず。オコエとカッコいい新女性キャラのクライマックスでの新衣装は絶対駄目ですダサいよカッコよさが台無しです。

ライアン監督が最後に生前のチャドウィックと会ったのは、彼の病床に今作のまだティチャラが主人公だったバージョンの脚本を届けに行った時で、チャドウィックは身体がもう辛くて脚本を読む事ができなかったそうだ。それだけでライアン監督がどんな思いでこの映画を作ったのか、その痛みと哀しみは計り知れない。監督は脚本を死を受け止めた上で全く違う形に書き直した。ライアン監督と同じ境遇に置かれたら、この世のほとんどの人間が作る事ができないか大失敗するかのどちらかだろう。ここまで追悼を形にできただけで凄まじい事だと思う。
監督は魂をすり減らすレベルで作品や人間に向き合い苦労したと思うので、今はゆっくり休んで下さい。あとMCUは脚本に時間かけないのと次へ繋げようとしすぎるのをもう止めような。
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