カツマ

ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバーのカツマのレビュー・感想・評価

3.8
哀しみが深過ぎる。その気高き背中、大らかな声、強き身体と心、全てがあまりにも大き過ぎる存在だった。その不在は埋まらない。巨大な穴を塞ぐことなどできやしない。それでも、物語は、残された人々は前に進むことを余儀なくされた。これは哀しみが降り積もった後の物語。堆積していく苦しみを、少しでも軽くするためのリハビリのようでもあった。

MCU(マーヴェル・シネマティック・ユニバース)の30作目にあたる本作は、ブラック・パンサーシリーズの二作目として、元々はチャドウィック・ボーズマン主演で作られる予定であった。だが、世界は、MCUはチャドウィック・ボーズマンという稀代のカリスマを失ったことにより、ティ・チャラをこの主演俳優と共に埋葬するという道を選んだ。ここにあるのは喪失と追悼、そして前進。この路線変更は製作陣にとっては難題だったろうが、本作はティ・チャラとボーズマンへの追悼と、それを乗り越えるための記録して、希少で美しい作品として昇華されていた。

〜あらすじ〜

ワカンダの王、ブラック・パンサーことティ・チャラは、難病に侵され、妹のシュリの尽力も虚しく、王は先祖の元へと召されていった。シュリは特効薬となるべくハート型のハーブをあと少しというところで完成予定だっただけに、兄を助けられなかったことを悔い、哀しみに暮れる日々を過ごしていた。
一方、ワカンダが喪に服す最中、国連の議会に召喚されたティ・チャラの母にして女王ラモンダは、希少価値の高いヴィヴラニウムを何者かが奪いにやってきたことを国連に堂々と抗議し、ヴィヴラニウムをワカンダの外には渡さないことを宣言した。だが、ヴィヴラニウムを喉から手が出るほど欲しがる諸国は、ヴィヴラニウム探知機をとある科学者に作らせ、海底にそれが眠っていることを発見する。が、そこに現れたのは海底の民、タロカンとその皇帝ネイモア。彼らが諸国のヴィヴラニウム探索隊を壊滅させた後、この凶行は実はワカンダの仕業なのでは?という噂がまことしやかに流れ始める。そんな中、ラモンダとシュリの前にネイモアが突然現れ、ヴィヴラニウム探知機を発明した科学者を連れてくるよう依頼してきて・・。

〜見どころと感想〜

まずこの映画はティ・チャラとボーズマンを追悼するための作品と断言しておきたい。そして、そこから立ち上がっていくキャラクターを力強く描き、成長と前進、更には世代交代を推し進めようとする意図も感じられる。だが、突貫工事での脚本変更は如何ともしがたく、MCU作品にしては物語が単調でチグハグな面は否めない。それでも随所にアクションシーンでも迫力ある画を創出できており、相変わらず(リアーナ含め)サウンドトラックは最高だった。

チャドウィック・ボーズマンに代わって物語の主軸を担うのは若き王女シュリ。彼女への重責はあまりに重く、次々と押し寄せる哀しみを受け止めるには彼女はあまりにも小さい。が、そんな彼女が立ち上がり、自身の心と向き合っていく姿は勇ましく、美しかった。そんなシュリを演じたレティーシャ・ライトは今後のMCUを占うだろう重要なキャストとなるだろうし、どんなキャリアを歩んでいくのか楽しみな存在である。

他にもナキア役のルピタ・ニョンゴ、オコエ役のダナイ・グリラなどお馴染みのキャストは続投。新キャラとしてはタロカンの帝王ネイモア、アイアン・ハートことリリ・ウィリアムズらが登場。これらのキャストは初見だが、彼らの今後のMCU作品での再登場で段々馴染みが出てくるのでは、と思う。

アイアン・ハートはテレビシリーズも待機中で、恐らくアイアン・マンの後継的な位置付けだろう。タロカンの動向は謎だが、ワカンダとの関係性によっては意外なところでアベンジャーズと絡んでくる可能性もありそうだ。このように物語としては完全に独立していながら、MCUを前進させるという役割も担った本作。非常に難しい舵取りとなったろうが、無事完成に漕ぎ着けたことが偉業だろう。MCUの地図は広大になり今後の展開は不安だが、ブラック・パンサーシリーズの三作目が今作の苦しみを回収してくれることを切に願う。

〜あとがき〜

ここ数年間は毎回奥さんと二人で映画館で観てきたMCUですが、育児期間中のため今作はディズニープラスでの鑑賞となりました。もちろん映画館で観れたらベストでしたが、全体的に絵面が暗かったので眠くなっていたかも?大幅な脚本変更の苦心が垣間見える作品で、MCU作品にしてはストーリーが微妙でしたね。

ただ、それを補ってあまりあるオープニングとラストシーンが全てを持っていってくれるくらいに最高でした。泣いちゃいますよね、あのラストは。続いてはアントマンの新作が待機していますが、恐らく配信待ちになりそうです。大作を映画館で観られる日もそんなに遠くはないかな、とスクスクと育っている娘を見て感じる日々ですね。
カツマ

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