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海辺の映画館―キネマの玉手箱のペインのレビュー・感想・評価

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“人類の歴史とは、つまるところ戦争と殺戮、破壊の歴史である”

ゴダールの映画史ならぬ、大林の映画史。また、“映画を見るよりも先に映画を作っていた”という驚愕のエピソードを持つ怪人、大林宣彦というその人そのものが文字通りすべて“刻印”され、ぶち込まれたような宇宙レベルの怪作。

遺作でありながら、デビュー作『HOUSE ハウス』に原点回帰したような迸る赤を基調としたイメージ(断片)のつるべ打ち。元々超クセの強い作家であるにもかかわらず、近年“デジタル”という名の“おもちゃ”を手にした75歳超えの“赤ん坊(良い意味で)”は、より拍車をかけて奔放さが増し、大暴れしている。

大林組常連のオールスターキャスト揃いな本作だが、初顔合わせとなる稲垣吾郎や成海璃子らも参戦。特に成海璃子は初顔合わせとは信じがたいほどのハマりっぷりと脱ぎっぷり。ここにきて間違いなく彼女の最高打点叩きだしたと思います。あと山崎紘菜は大林映画ではいつも一際輝いている。

「映画というのものは本来、本質として不自然な作り物である」というのが大林監督作でずっと貫かれているテーマであり、それを突き詰めたような過剰な演技、演出が毎作なされているわけだが、劇中セリフで何度か出てくる“ウソから出たマコト”とあるように、作り物の中にこそ、まこと(真実)が宿り、それが観客の心に伝わって息づいていくのだというアートに対する彼なりの信念も本作では伺える。

正直、映画としての出来ということを考えると、いくらなんでも詰め込み過ぎで収拾ががつかなくなっちゃっている感もあり、前作『花筺』や『この空の花~』に比べるとかなり不恰好でアンバランスな作品に仕上がっているのも間違いない。とはいえそれも常盤貴子さん言うところの、ある種の監督の“走馬灯を前倒しで見せてくれたような作品”であるが故のとっちらかり感でもあるので、これはこれで良いのかなと思う。

手塚眞さんが小津安二郎、そして犬童一心さんが山中貞雄を演じて語り合うくだりも実に楽しかったし、個人的には『肉弾』『独立愚連隊』等の岡本喜八オマージュがあったのもニヤリとさせられた辺り。

いまこんなご時世ですが、戦時中に比べれば数段はマシだなともある種思わされたし、我々人間は各々出来ることをやるしかないのだと、つくづく思わされた辺り。本当に大林さんお疲れさまでした。採点という計りでは計りきれない作品なので今回はナシです。
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