Yoshishun

海辺の映画館―キネマの玉手箱のYoshishunのネタバレレビュー・内容・結末

3.6

このレビューはネタバレを含みます

"映画は歴史を変えられない、でも未来は変えられる"

昨年4月10日。奇しくも本作延期前の公開日にこの世を去った日本映画界の巨匠・大林宣彦。2016年に4ヶ月の余命宣告を受けながらも、4年も病と闘い続けた彼が、最後に伝えたかったこととは――?

本作は、今までの大林映画と比較しても、圧倒的に視覚トリックに溢れており、また同時にタイトル通り玉手箱の如く様々な要素が入り乱れた内容となっている。大筋としては、映画の世界に迷い混んだ3人が愛する者を救うため、フィクションの世界でタイムスリップしていく、というファンタジーとなっている。その過程で幾多もの戦争映画の世界に入り、戦争と平和について考えさせられる濃密な3時間大作。大林作品のファンであれば、20年ぶりに尾道を舞台にした新作と聞くだけで胸が高まるはず。私は尾道三部作未見かつ数える程しか見たことのない俄ではあるが。

しかし、そのあまりに画期的な内容のせいか、その全てに賛辞を送るべき作品であるとはどうしても言い難いのが本音である。

まず、3時間もかけて描く程の内容かと思う。若者3人がタイムスリップし、戊辰戦争~原爆投下といった日本の戦争の歴史を辿る様子を監督らしいエキセントリックな映像世界で魅せてくれるものの、云わんとしていることは同じことばかりのように思う。監督自身強い反戦の意思を込めて製作したに違いないが、あまりにも「戦争はダメ」だの「私達は皆戦争の犠牲者」だの、似たメッセージを何度も何度もサブリミナルに表現していく。本筋となるタイムスリップを終えて、尾道の映画館最後の日を終えた後の後日談も長ったらしく、希子の正体までは面白く見れたものの、その後の平和を謳う現代の描写が蛇足に思えた。

また、大林作品の特徴である独特の編集によるカットの数々がくどい。場面転換などは過去作にも多く見られた手法だが、フィルムの1シーンのように円形のスコープに切り取った演出が、カットが変わるごとに施されている。観客の視点を集中させるためとはいえ、切り取り前後での切り替えが激しいので観ていてかなり疲れる。

しかしながら、監督らしいユーモアもたっぷりで、また監督が描きたいもの全てが詰め込まれた玉手箱のような映画としての面白さもある。戦争映画オールナイト上映でありながら、まさかの戊辰戦争から始まる下りに若者が驚く姿は、観客の気持ちとリンクしていて笑えたし、宮本武蔵や新撰組なども登場するアンバランスさも愛らしく思える。また、映画史映画として、サイレント映画にも焦点をあて、また数々の制限をかけられながらも今も日本映画の名作と数えられる『無法松の一生』にもフィーチャーした点は、映画の変遷と映画史としての機能を果たしていてよくできている。

また、大林映画の集大成でもある本作は、過去の大林映画に出演経験のあるスターを含め、オールスターで製作されていることも大きな見所といっていい。脇を固めるのが武田鉄矢や稲垣吾郎と、日本映画界には欠かせないキャストで構成されているのでお祭り映画としても楽しめる。それだけ監督に対する信頼が熱かったのだろう。

作品の内容として、明らかに万人向けではないものの、大林宣彦が未来を生きる私たちに向けたラストメッセージを受け取らずにはいられない。夢と混沌と希望に満ちた玉手箱のような娯楽作。
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