keith中村

海辺の映画館―キネマの玉手箱のkeith中村のレビュー・感想・評価

5.0
 うわぁ。
 とんでもないもん観ちゃった。
 予想はしてたけど、その予想を軽々超えるとんでもない体験だった。
 
 おまけに、日比谷シャンテ(山崎紘菜ちゃんが本篇前から見られるので、本作にはぴったりの劇場かもしれない。というか、劇中に登場する園井恵子さんの出てた有楽座もここだよね?!)の最前列でずっと見上げていたので首が痛い。
 そのためか、或いは映画のせいか、頭の中がずぅんと重い。眼と耳からとんでもない何かを注入され、脳に詰めこまれた感じ。
 
 こんなの、観終わって帰ってきて、すぐにレビューできるシロモノではない。
 ただ、大傑作であり、大林宣彦の集大成であり、同時に原点回帰でもあり、さらには遺言書でもあるのは間違いない。
 
 最初1時間くらいは、「また、やりたい放題やってんな~」とニヤニヤ観ていた(最後には涙腺決壊するんだけどさ!)。
 なので、マリオ・バーヴァは昔っからのもじりなのでわかったけど、残り二人がトリュフォーとドン・シーゲルだってのに気づいたのは中盤くらいでようやく。
 そんなのも含めて、これは何度も観直さないと、すべての情報を把握するのは不可能な作品です。。
 とりあえず、初日に劇場で観るというありがたい体験はできたので、もう何度か足を運ぶか、ソフト化・配信化の際に、一時停止を多用してつぶさに確認するかは必須。
 
 あと、終盤で結構大きめに映るポスターに尾道三部作のヒロインの名前が見えたんだけど、エンドロールでそれが本作ヒロインの名前だったと気づいた。
 
 「映画に飛び込む映画」というのは私の大好物な趣向でもあるんだけれど、とうとうそれの決定版ができてしまったと感慨深い。だってそれが、同じく私の好きな「スクリーンのこっちという安全圏にいる我々に、スクリーンを超えて重いものを投げかけてくる映画」にもなってるんだから。
 
 学生の頃に私は8ミリ映画を撮ってたんだけど、上映してると結構な割合でフィルムが焼けて溶けるんですよね。
 8ミリは、スプライシングテープでフィルムをつなげてるだけなんで、接合部で引っかかりやすいから。
 劇場のプリントはそういうことがないので、幸か不幸か、映画館で観てた作品が溶けた経験は私にはないんだけれど、劇場でも体験した人はいるでしょう。あ、「グレムリン2」はびっくりしたけど(笑)。
 第一幕は、映画に関するノスタルジーが散りばめられているので、コマが焼けるというのも、単にその内のひとつと思っていたら、それが本作最大の伏線と言うかキーになるなんて。
 
 あと「ピカ」=光と「ドン」=音は、とりもなおさず映画の二大要素だというのも、何と言うのかな。
 「皮肉」では決してないな。「周到」? ともかく大林監督、凄いわ。
 
 これを以て、戦争三部作が戦争四部作になったということでいいのかな。ロメロ御大は三部作といいながら、6作作ったけど(笑)。
 より劇映画っぽかった「花筐」「野のなかかのか」の要素もあるし、そこに、あれだけぶっとんでた「この空の花」がまるで習作に過ぎなかったかに思える「いっちゃってる」感を投入したある本作は、何しろただごとではありません。
 
 輪郭線の見えるチープな合成は、大林さんの十八番だけど、近作では「花筐」で顕著だった、「ぼんやり見てたらロケにしか見えないけど、ちゃんと見ると、ほんとは完全に消せるんだけどわざと微妙に輪郭線を残した合成」が多用されていて、「だったら、普通にロケしたほうが全然楽じゃない?!」と思っちゃうくらい、よくわからない手間を惜しまないところに、執念と狂気と「想い」を感じます(なんの「想い」か、わからないままそう書いちゃったけど、恐らく大林さんの言う「映画のリアリズム」を表現する「想い」かと)。
 
 私はリアルタイムで「ハウス」から観てきた世代なんで(さらに子供の頃は「う~ん、マンダム」とかやってたな……)、いよいよこれで新作が観られなくなったということに、とても寂しい気もしますが、まだ大林作品で未見の作品もあるので、これからはそれを楽しみに生きていきます。
 もちろん、本作のメッセージも噛みしめながら。
 
 最後に。
 これさあ。大林さん本人に、まだやり残したことがあったかどうかは、もはや誰にもわかんないんだけれど、本作観るとさあ、「うわぁ。大林さん、全部やり切って旅だったんだ!」って思いませんでした?
 なかなかそれを全うできる芸術家っていないと思う。ほんと、凄いわ。
 劇中でも山中貞夫の遺書が出てきたけど、山中監督なんかはさぞかし無念だったろうしね。
 
 大林監督、どうか安らかに。
 というか、これからもちゃんと上から「世界」と「映画界」を見ててくださいよ!!

=======================
2020.08.05追記
封切日に観たんだけど、今日も仕事帰りにまた観に行っちゃった。
何度でも観たい。
劇中に登場する大林監督に、「ああ、大林さん、そこに永遠の居場所を得たんだ。これからも本作を観るたびに会えるんだ」と、感じた。
そうえいば明日は8月6日だ…。