えむ

ハリエットのえむのレビュー・感想・評価

ハリエット(2019年製作の映画)
3.6
実在する奴隷解放運動家の女性、ハリエット・タブマンの生涯を実話に基づいて映画化したもの。

奴隷として売買され、自由を奪われ、子供が出来たとしても『生まれながらの奴隷』として当たり前のように取り上げられて売り飛ばされる。
過去の契約があったとしても一笑にふされて反故にされ、一生の所有物としてぞんざいに扱われる。


そんな奴隷としての苦しみの人生から逃れるために、自由を求めて単身、神の導きと共に歩き出すミンティ。(後にハリエットと改名)

彼女は以前に奴隷主との間で頭蓋骨を割られる怪我をしていて、その後遺症で『神の声が聴こえる』ようになったのだけれど、その声の導きによって逃亡を果たし、晴れて『自由黒人』となり、そこから助けてくれた組織と共に奴隷解放運動に関わっていく。

さしずめ黒人版『ジャンヌ・ダルク』というところ。


逃げ出そうとする奴隷たちと助ける運動家、怒り狂う奴隷主たちとの攻防。

ハリエットの強さはもちろん見どころなのだけど、同時に奴隷を『盗まれて』いく彼らの言い分を聞いていると少しばかり複雑な気持ちにもなる。

『盗まれて(金銭的に)損害を被った』
『逃げられて生活が立ち行かなくなっている』

それはそうなんだと思う。
確かに金銭払っているのだから、彼らとしてはたまったもんじゃないだろう。
もしもこれが、奴隷ではなく、単に『雇用』だったとしたら、それは普通の話だったと思う。
給金払ってるのに仕事ほっぽり出して逃げられたら困る。


『奴隷だから』と、自分と同じ人の存在そのものまで全てを所有して、モノのように扱っても良いとする前提が人としておかしいのであって、同じ形でも『使用人として』きちんと扱っていたなら全く違うものになるんだけど。

…と、この映画を観ていて改めて思ったりもした。

『他者に対する、同じ人としての尊重』、そもそも白人側の殆どはキリスト教圏の人達だろうに、当たり前に分からんもんなんだろうか…
それこそ神様怒るで。


心から血を流しつつ、神と共に歩もうとするゴスペルの歌詞、それを歌いあげるシンシア・エリヴォの歌声が素晴らしい。


多くの人々を助け、最期に愛する家族に遺したハリエットの言葉。
それはとても彼女らしく『粋』だと感じたラストでした。

『I go to prepare a place for you.』
((先に行って)みんなのための居場所を(天国に)用意するわね)
えむ

えむ