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ハリエットのikumuraのレビュー・感想・評価

ハリエット(2019年製作の映画)
3.4
【Wade in the water, wade in the water, children. Wade in the water, God's gonna trouble the water】
ハリエットタブマンという、南北戦争前から20世紀初頭にかけて、
奴隷から社会活動家という激動の人生を生き抜いた女性の伝記映画。

アラバマで奴隷として育ち、
年季が明けたら自由の身にするという約束を反故にし、借金のかたに売って夫からも引き離そうとする極悪主人から北部へ逃れ自由の身となり、
危険を顧みずまたアラバマへ戻って家族や他の奴隷を逃し、
「モーゼ」として恐れられ、やがて南北戦争の時代へ。。

奴隷で女性、という立場から、
解放「される」のではなく主体的に行動を起こしていく、
という意味でタイムリーなヒロイン像でもある。

奴隷は財産なので、追っかけてきてもそうそう簡単に殺したりはしない、
というのは一つ鍵になっているかも。
みんな鞭打ちとかで身体が傷やミミズ腫れだらけだけど。。

そして北部に逃げれば自由の身になれたのだが、
「俺たちの財産をどうしてくれる!」という南部の人たちをなだめるために、
北部に奴隷のまま逃れた黒人の取り締まりを厳しくする逃亡奴隷法が紛糾の末1850年に連邦レベルで成立。
これが南北戦争への伏線になるわけですが。。

話に意外な展開はあまりないし、
大事なところでハリエットが神の声に導かれてしまうところは
「え?そんなのあり?」
と、毎週教会に通ってるアタクシ
(カトリックです)でも思わないでもなかったが、
神の導きが幼少期のトラウマが呼び起こされるのとともに聞こえる、
というのは、神が虐げられた者に寄り添い、力づけ、
社会を良い方向に変えるよう働きかける、
というキリスト教のテーマに沿うものなのだなあ、
という点では納得がいく。

モーゼが祈ると海に道ができてイスラエルの民が通れたとか、
イエスが湖を渡る故事、
落穂拾いなど、聖書的なモチーフが次々に現われる。
そもそも、勝手にアフリカから連れてきて、モノとして扱う白人の側の宗教
(しかも南部の人たちはその支配を正当化するために聖書を利用している)
を、黒人たちが拠り所にしていることに、自分も信仰しているのに(だからこそか)
落ち着かないものを感じる時もあるが、
彼らはこうして聖書の世界を生き直し、
解放のために原動力としてきたのだろう。
その苦難の経験を刻んだものとして、ゴスペルなんかもあるわけで。
もともと、"Wade in the water"(水の中を進め)
という聖歌が好きだったのだが、
これもタブマンが実際に歌い、暗号としても使った歌で、この映画にも出てきて感動した。
https://youtu.be/ZXqMQfpNSes

宗教的なことでいうと、当時の奴隷解放運動に携わった白人も
「神は人を平等に作られた」というキリスト教の立場に拠っていて、
自由州と奴隷州の境界あたりで密かに逃亡の手助けをする農夫のおっちゃんとかも、
クエーカー教徒とかなんだろうな。

「アンクルトムの小屋」も読書会で読んだことがあったので、いろいろと重なるところがあって面白かった。
その著者はもう一人のハリエット、ハリエット・ビーチャー・ストウ。
父も牧師であり、奴隷州のケンタッキーに接するオハイオのシンシナティで育った彼女は、
逃亡奴隷や彼らを助ける「地下鉄道」の運動にも近く、
アンクルトムも宗教的な立場から書かれた小説であると同時に、
意外に複雑で多面的な背景が織り込まれてて、
世間で言われているよりずっと面白い小説じゃん、と思いました。
(奴隷制には反対だけど黒人とは交じり合いたくないし、アフリカに送り返せばいいと思ってる頭でっかちなピューリタンとかも出てきたり、
なんとなく現代でもこういうリベラルなひといそう・・・とか(笑))
親と子が引き離されることの残酷さ、というのも強調されていて、
それが当時の婦人層にアピールしたりと、
政治的な意図を持って書かれた小説ではあるんだけど。
(この、家族を引き離す奴隷制の酷さ、
というのはハリエットにも通底している)
シンシナティに旅行した時、ハリエットビーチャーストウの生家を訪ね、
ケンタッキー側に渡って川を挟んだシンシナティ の街並みを見た時は、
その命がけの旅を想像して身体が震えた。