シズヲ

ハスラーズのシズヲのレビュー・感想・評価

ハスラーズ(2019年製作の映画)
3.4
大不況の煽りを受けて“半グレ”化するストリッパーの話。リーマン・ショックの際の実話をベースにしているらしく、根本的に資本主義批判の内容になっている。『ジョーカー』のアーサー・フレックもそうだったけど、貧困層への救済が不十分な社会にはそれ相応の歪みが生まれることをエンタメ的に教えてくれる。「傷付いた人間は他の誰かを傷付ける」「この街の人間は二種類、金をばらまく側とステージで踊る側」などの台詞が端的。『パラサイト 半地下の家族』もあったし、近年は貧富の差による格差社会を描く作品が改めて目立ってる印象。

本作は生活に困窮した人間が半グレ商売に手を染める話なので、スタイリッシュな犯罪劇と呼ぶには大分泥臭い。作中の男は総じて醜いが、こいつらは“男性優位的な資本主義社会”の象徴でしかないので登場人物としての人格描写は稀薄。彼女達の本当の敵は個々の富裕層ではなく、格差を作る社会基盤そのものなのだ。そういう意味では本作の無差別的な詐欺はやり過ぎ感もあるけど、詐欺相手=裕福な金融マンを記号的存在として描くことで緩和している。ストリッパーも“搾取される女性”の象徴として分かりやすい(些か華やかなきらいはあるけど)。

ジャケットでは「私たちはもう媚びない」と格好良く書かれているが、作中での実像は元々の商売相手だった金融マンへの“寄生”をより強行的な手段へと変えただけ。そして大金を稼いだ後にやることは不況前と同じ、散財して楽しむことばかり。あれだけ派手に稼いだ上でそれらを建設的に活かそうとする様子は殆ど見受けられない。犯罪の正当性を説いたラモーナもそうだけど、基本的にみんな教養や知性をそこまで感じられないんだよな。そもそも生活苦に関してはどう考えても社会保障などの内政にも問題があるが、彼女達はそういう政治性へと行き着けない。だから自分達を苦しめる資本主義的価値観の枠組みで足掻くことしか出来ない(紙幣を稼いで散財するという形で図らずも“資本主義”や“セレブ”に倣ってしまう)。貧困層だった彼女達の本質的な限界をそういった部分で感じてしまうのが切なくなる。

あくまで実話ベースなので『オーシャンズ8』のような悪党の美学がある訳ではなく、また一種の復讐モノではあるが別に痛快でもない。その割にスタイリッシュな楽曲が作中で何度も用いられるという演出の“格好付け”感はちょっと肌に合わなかった。あまり得意ではないタイプのエンタメ的作風が色濃いのでそこまで乗り切れる作品ではなかったけど、物語の骨子にある“社会構図”には興味深いものがある。そしてデスティニーとラモーナの友情など、女性同士の関係性や共同体が印象的に描かれているのが良い。お祖母ちゃんや子供を交えたパーティーのシーンなんかも向こう見ずだけど兎に角陽気で味わい深い。最初の出会いから共犯まで、育んできた絆はある意味で青春。
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