じい

ルース・エドガーのじいのネタバレレビュー・内容・結末

ルース・エドガー(2019年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

光が強けれは強い程、その影もまた濃くなる。
矛盾を抱えたアメリカという豊かな大国の影もまたルースの影と同様なのかも知れない。
パラサイトで半地下の住人が誰と対立構造にあったのかと同じくここでもまたマイノリティ同士が少ない椅子を取り合って闘わなければならないのかと暗澹たる思いになった。私の暮らす日本でも対岸の火事ではないのだろう。

ルースの抱える闇と孤独、ラストのランニングの表情と華々しいスピーチを一人で練習する時の涙には胸が締めつけられるような気がした。
母親の綺麗事と表裏一体の愛情。
料理をしない事が示唆されるいくつかの場面があるが、それは彼女が「美味しいとこ取り」の育児をしてきたことの現れなのかとも思う。料理=愛情ではないので暴論かも知れないが子供を育てるうえで大切な日々の食事に対する熱意まではなかったという意味で。
ただ、それでも彼女が彼を愛していないわけではないのが哀しい。父親の自己愛もルースにはやはり伝わっているのだろうと思う。
フィクションの世界だとわかっていても彼がいつか本当の自分の居場所を見つけられることを祈らずにはいられなかった。

ストーリー自体はネタバレ的な内容も最後まであきらかにされることなく終わり、誰か一人が悪人でも聖人でもなく、玉虫色な作品だったが、主要俳優陣4人の演技が圧巻で最後まで引き込まれて観た。
とりわけルースを演じたケルヴィン・ハリソンJr.の繊細さ、悪魔性も感じさせる純真さはこれからが楽しみで、恐ろしくもある。

個人的にはもう少し評価されても良い作品だと思うが、評価がこの数値に留まっている理由もわかる気もする。
誰にでもお薦め、という作品では無いかも知れない。かと言って限られた人にしかわからないというような観客を選ぶ作品でも無い。
ストーリーテリングや画作りは芸術性の何たるかを理解できていないであろう私のような一般的(?)な観客にも充分に平易でわかりやすいものだった。
繊細に作られた佳作だと思う。
じい

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