ギズモX

アラビアンナイト 三千年の願いのギズモXのレビュー・感想・評価

4.6
《すべて国々の民よ これを聞け。
 すべて世に住む者よ 耳を傾けよ。
 低い者も高い者も、
 富む者も貧しい者も ともどもに。
 私の口は知恵を語り、
 私の心は英知を告げる。
 私はたとえ話に耳を傾け、
 竪琴に合わせて 謎を解き明かそう》
[詩篇 49章1〜4節]

あの『マッドマックス』シリーズのジョージミラーが手掛けたロマンス映画。
三千年間生き続けた魔人と神話学者の女性がおりなす会話劇を描いたストーリー。
とても文学的な映画であり、見終わった後はとても充実した気分で劇場を出たけど、どう感想を書いていいか迷う、そんな作品だった。

《学者のアリシアは神話学者の専門家。
 講演先のイスタンブールで古い瓶を購入し、ホテルの自室で汚れを洗い流していると、蓋が外れて中から魔人が出現する。
 魔人は封印を解いたお礼として三つ願いを叶えてやると言うが、その結末を既に知り尽くしているアリシアはこれを拒絶。
 すると魔神は疑念を抱くアリシアに対して、三千年にも渡るこれまでの体験談を語り始めるのであった》

ジョージミラーは『マッドマックス2』を撮る際に、世界中の神話を読み漁り、その神話の中に共通する構図をプロットの中に組み込んだ。
力が全てを支配する世界で生気を失った主人公が試練に立ち向かい、人々を救って去っていく王道的パターンだ。
改造車が爆走するだけの単調なストーリーである『マッドマックス2』や『怒りのデスロード』がドラマティックな作品となり得たのは、この神話があるからに他ならない。
そして本作も、古今東西の物語の中に宿る神話が科学や商品に置き換えられつつある現代社会の中において、三千年の年月が作り上げた伝説、魔人の物語を解き明かし、自身の生き方に反映させ、人生に意味を見出していくという、神話が持つ力とその意義を再構築する作品となっている。

個人的には、派手な演出ではなく会話で物語を進める古風な作風に頭が動かされ、学者や評論家、僕達レビュワーに寄り添った映画だなと思わされた。

※ここから先は少しネタバレ注意

一番心に残った場面が物語の終盤。
魔人が回想を終えてアリシアが願った直後に話をまとめる壮大な演出が入ったので(あ、これはもう終わりだな)と思ったけど、普通に物語が続いたからとても驚いた。
その後も終わりを思わせるカットが入るがまだ続くといったシーンが連続して繰り出され、まるで人が物語を聞いた後にどうなったかを映した展開になっていく。
物語が終わっても人生は続き、その人生もやがて物語となって語り継がれることを暗示している様に感じてしまい、どこまでも続く物語の果てに辿り着いた結末にはとても心温まされた。

物語の本質は"気付き"なのかもしれない。
神話的な物語がより好きになれる作品だ。
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