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ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコのbackpackerのレビュー・感想・評価

4.0
「家族からは逃げられる。悲しみからは無理よ。凶暴な影のように、ずっと付きまとう」

Filmarks試写会にて鑑賞。
はみ出し者が世界を変える系、実話を基にした映画。

主演のベネディクト・カンバーバッチといえば、『ホーキング』『ゴッホ 真実の手紙』『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』『エジソンズ・ゲーム』そして『SHERLOCK』シリーズ等でお馴染みの、"奇天烈な天才役を演じさせたら文句なし"な名優です。本作でも役への入り込み方が素晴らしく、メイクの力でジジイ・カンバーバッチに大変身した姿も、実にファンタスティック!
老けメイクした姿は御父上に似た雰囲気になっていましたね。きっと年老いてからのカンバーバッチも、最高の演技を見せてくれるに違いない!という、期待と確信を抱かせてくれました。

監督・脚本のウィル・シャープは、イギリス人の父と日本人の母を持つ、日系英国人の俳優さん。カンバーバッチとは『SHERLOCK』シーズン2第2話『バスカヴィル家の犬』にて共演しています。新進気鋭の監督であり、期待の若手俳優でもある。なんと才能豊かな方なのかと、驚いてしまいました。


本作の大まかな流れは下記の通りです。
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第一幕:設定
⇒ルイス・ウェインの人物像と彼の家族や家庭環境の説明(上流階級の身だが、変わり者)、家庭教師でやってきた未来の妻エミリーとの出会い(階級の違いを鮮明に描く)、僅か6か月程度の幸せな普通の結婚生活とエミリー末期がん宣告&親友であり人生の師でもある愛ネコ・ピーターとの出会い(一幕クライマックス兼二幕導入)

第二幕:展開・失墜
⇒ルイス・エミリー・ピーターの"幸せな生活"、涙の別れ、猫画家としての大成功、家族の危機(妹マリーの統合失調症と長女キャロラインの叱責)、愛猫ピーターの死と美しい作品との相関、アメリカへの渡航と精神的病理の悪化(二幕クライマックス兼三幕導入)

第三幕:解決・満足
⇒悪夢から生み出された"未来の猫"と家族の死(母の死、マリーの死、キャロラインの死)、第一次世界大戦と"電気猫万華鏡"、心の友サー・ウィリアムズの死、精神病院と懐かしい人との再会、「奥様はなぜ、あなたに『どんなに悲しくても描き続けて』と言ったのか」、光の中に答えを見つける
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本作の流れを書いて、改めて印象的だったなと認識したのは、二幕のミッドポイント。
上映開始から60分頃のタイミングで、ルイスとエミリーが暖炉の火を眺めながら話をするシーンが始まります。
二人の顔のクロースアップをスクリーン一杯映しつつ、会話を長回しで捉えるこのシーン。
死が目前に迫りながらも、ルイスを案じるエミリーの言葉と、涙ぐむルイスのやりきれない表情。1分以上ノーカットで続いく劇中最後の二人の会話が、ルイスの人生を大きく揺さぶり、物語後半の原動力として働き続けます。
また、二幕終盤で訪れる、愛猫ピーターの死によりルイスの精神の不調がいよいよ露となってくる手前のシークエンス。ナレーションが語る「もがき苦しむほど美しい絵が描ける」という言葉には、衝撃を受けました。人生はいばらの道だと端的に突き放す言葉。残酷ですが、それがルイスの人生なんですね……。

スクリーン一杯に……のくだりで思い出したので記載しますが、本作のスクリーン比はスタンダードサイズでした。
1800年代末といえば、映画が誕生した時代。その時代に活躍した画家の物語となれば、やはりサイズはスタンダード!と考えたのかどうかはわかりませんが、画面一杯に所狭しと映される美術の美しさや、圧力が感じられる森林等の自然景観を見ると、スタンダードサイズはベストマッチだったんじゃないかなと思います。
特に、縦長の実家の階段や、「パパママ助けて!溺れちゃうよ!」の悪夢にうなされたホテルの一室(この時のカンバーバッチの迫真の水中演技等は、本作有数の怪演でした)等は、画面比が狭ければ狭いほど、圧迫感があってイイ感じです!

ただ、映写はビスタサイズくらいだけど、画面サイズはスタンダードという状態のため、どうしても両脇に薄ら見える白っぽさが気になってしまいました。
サイズ調整ようのカーテン引いてくれたら最高だったんですが、kinoフィルムズの試写室にはそのような仕組みがなかったようで……この点だけが残念。

閑話休題

テンポの良い展開、作りこまれた美術による空間演出、美しいライティング、油絵調の自然風景……。この作品には多くの魅力が詰まっていましたが、何といっても素晴らしかったのは、やはり俳優陣の名演技。
青年期から老境まで巧みに演じ分けたベネディクト・カンバーバッチは当然のこと、ルイスを死してなお守り続けた大きなエミリーを演じたクレア・フォイの薄幸ながら力強い生命力を感じられる演技や、ルイスに嫉妬と羨望・期待と親愛の感情を併せ持つキャロラインの役を好演したアンドレア・ライズボロー(見覚え或るなと思えば『マンディ地獄のロードウォリアー』のマンディの人!!)等、出演者が皆味があって素晴らしいですね。
脇を固めたトビー・ジョーンズ(サー・ウィリアム・イングラム卿)やちょっぴり登場タイカ・ワイティティ、常に可愛らしく見る者全てを魅了した猫のトミー。
見る者を魅了する俳優陣の名演技が、ルイス・ウェインの数奇な人生に入り込ませてくれる、最高のエッセンスになりました。


冒頭(1881年)の電車の中で知り合った、ポメラニアンのクレオパトラちゃんを連れた紳士ダン・ライダーが、まさかここで!という場面で登場してきたときは、人生は合縁奇縁と思わずジーンとしました。
パンフレットがあるならば、是非とも読んでみたい作品でしたので、ぜひ劇場でご覧ください!!
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