螢

マシュー・ボーン IN CINEMA 白鳥の湖の螢のレビュー・感想・評価

3.6
悪魔によって白鳥に変えられた可憐な少女と王子様の悲恋を優雅に描いた古典バレエの代名詞「白鳥の湖」。それがまさか、百数年後の英国で、逞しい雄の白鳥とマザコンひ弱王子の悲恋を力強く描いたコンテンポラリー・ダンスに改変されるとは、チャイコフスキーは予想すらしなかったに違いない。

英国人演出家マシュー・ボーンが超絶大胆にリライトした本作でオリジナルと一致している設定は、「白鳥と王子が出てくる」のと、「そっくりな別人が物語をかき回す」こと、そして、「成就しない」点、ぐらいでしょうか。

主役の白鳥の性別が男になれば、群舞の白鳥たちも当然男だし。
作中には、王子と恋仲になる尻軽女も下世話なナイトクラブもパパラッチもiPhoneも登場するし。
もう、「白鳥の湖」のタイトルつけてていいのか、とすら思ってしまう。

とはいえ、誰もが知るチャイコフスキーの音楽に載せた名場面の「下地」は実に巧みに利用している。
このさじ加減は本当に見事だと思う。

女性の群舞が繊細さと精密さが際立つものだとしたら、対して、男性の群舞は力強くてエネルギーが迸るような感じで、その分壮大さがわかりやすく際立つ、圧巻の出来。

個人的には、もともと古典バレエよりもモダンバレエやコンテンポラリー・ダンス派だし、改変や解釈をオリジナルと比較する作業自体が好きなので、存分に楽しめた。
バレエの要素だけでなく、社交ダンスやジャズダンス等、他のダンス要素もふんだんなのも、観てて飽きなかった。
オリジナルよりもこちらの方が好みなくらい。

「白鳥の湖」を知らない人が初めて観る作品としては絶対にオススメしない。
けれど、時代の変化、芸術の歴史と改変の中で生まれたものとして楽しむと、とてもよく出来ている作品。
螢