うめまつ

マシュー・ボーン IN CINEMA 白鳥の湖のうめまつのレビュー・感想・評価

5.0
新しい扉を開けてしまった。もう見る前の自分には戻れない。スクリーンに釘付けになりながら、このまま時が止まればいいのにと思った。優雅で獰猛で妖艶で気高い鷹のような鋭さと豹のようなしなやかさを併せ持つ白鳥の舞いに、全細胞が蕩けて癒着して何か別の回路が生まれたような気がする。(生の舞台じゃないというのに!) あれほど魅惑的に踊りながら、王子を顔でつんつんして起こすとこ猫のそれと全く同じで萌え震えた。傷だらけでフラフラになりながら王子を守ろうとする姿に至ってはもう色々受け止めきれなくて限界だった。あぁあんなツンデレイケメンの白鳥を私も飼いたい(本音)。ナイーブマザコン王子の困り顔が劇的にタイプだったこともラッキーだった。

バレエにも舞台にも明るくないけど、この脚本がこの振付がこの演出がどれだけ斬新かつ濃密であるかは予備知識がなくてもわかる。95年の初演時なら尚のこと革命と呼ばれるのは必然だ。〝芸術という怪物に真正面から向き合って格闘している生命″を目の当たりにすることはこれほどまでに心を震わせるのか。昨日まで存在も知らなかったダンサー達が間違いなくこの舞台のためだけに全身全霊をかけて命を燃やしている。そのあまりに生々しい事実がやたらと胸を打つのだった。こんなにも筋肉とその上を流れる汗を美しいと感じたことはない。舞台上のどんなに素晴らしい衣装より圧倒的に煌めいていた。

王子と白鳥(orストレンジャー)の歓喜と嫉妬と悲痛の絡み(としか言いようがないけどパドドゥ?)は、男性同士だからどちらも相手を支えることができるし、軽いリフトもできちゃうし、その動きのバリエーションが生むダイナミックさと麗しさがもう眼福の最上級警報レベルで、その力強さの中に見え隠れする繊細さと痛いほど突き刺さる切なさに、これはもはや女の出る幕ではないなと思った。すべての踊りは官能性を帯びているけど、ここまで美しく融合しているのを私は見たことがない。この誰も触れないふたりだけの真白な愛を、目に焼きつけて離したくない。
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