富田健裕

天才たちの頭の中~世界を面白くする107のヒント~の富田健裕のレビュー・感想・評価

4.9
マーケティングのセミナーか!参考書か!という邦題が作品の敷居をこれでもかと押し上げている感が否めないが、本作でクローズアップされるのは数多の天才たちではなく、あくまでも世界各国に存在する(存在した)一人の人間、人間、人間…。

もちろん顔ぶれは名立たるお歴々ばかり。
自分が認識している彼らの立ち位置と、自分の現在位置の差は雲泥で、場合によってはパっと見土俵違いじゃないかと思うような人間たちも登場するのだが、そんな人の立場や距離感さえも一瞬にして縮めてしまう、とてもシンプルでパワフルでマジカルな質問があった。

“Why Are You Creative ? ”
「何故あなたは創造的なんですか?」

この質問によって天才は瞬く間に一人の人間に戻って行く。
誰もが一瞬言葉に詰まり、表情が固まり、思考に没入する。
タランティーノも、ショーン・ペンも、ゴルバチョフも、ペレも、誰もが一様に時を止める。
その姿が可愛くて、かっこよくて、寂し気で、逞しかった。
チャップリン、ゴッホ、ベートーヴェン、夏目漱石に同じ質問をしたら、彼らは何と答えただろう。

自分が他人と違っている、周りと比べて変わっていると認識した時に襲って来るあの孤独感、不安感。あの時はそれが個性となり自信になる日が来るなんて考えもしなかった。世の中には数多くの正解があると今では腑に落ちていても、あの時に感じた疎外感は未だに忘れられない。

インタビューに答えた人間たちは、突撃され、虚をつかれ、最初こそ「後にしてくれ」といぶかしがっていても、いざ答えを語る時には皆が楽しそうだった。
きっとあそこまで行く過程の様々な部分で己と向き合い、腹を括り、乗り越え、熱くも優しくなって来たんだろう。

「オレは、私は、ここにいるんだぞ!」

原語や単語は違っても、その叫びだけは共通していた。
富田健裕

富田健裕