butasu

hisのbutasuのネタバレレビュー・内容・結末

his(2020年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

静かに描かれる、迅と渚という男性二人のラブストーリー。

学生時代の別れから10年以上経って、突然渚が幼い娘を連れて迅の前に現れる。この入口だけで「これは単純な話じゃないな」と思わせるのだが、これが良い意味で全然複雑でもなくドロドロしてもいなく、ゆっくり静かにストーリーが進行していく。中盤の、お世話になった老人の葬式の場で迅が村人たちに急にカミングアウトしだした場面は、観ていて恥ずかしく正直キツかった。あと迅が昔の渚の服の匂いを嗅ぐシーンと着るシーンも。だがそれ以外は特に共感性羞恥を覚えることもなく、しみじみと観ることができた。

終盤の裁判シーンは一通り好き。弁護士を演じた戸田恵子と渚の妻を演じた松本若菜がとても良かった。主人公二人は比較的芝居が硬かったが、演出とキャスティングの上手さによりそれがむしろ効果的に機能していたようにも思う。迅を演じた宮沢氷魚の耳と手が常に真っ赤っ赤なのが無駄に気になった。あと細かいことだが、田舎の小さな村で自給自足で隠居生活しているような男なのに、茶髪でばっちりセットした髪型なのはどうなのかね。渚の娘はちょっとぶちゃいくだったけど、まぁあれはあれでリアルなのかも。

ラスト、渚と娘が遊ぶ様子を見守る形で渚の元妻と迅が二人になったとき、観ているこちらに走るのは緊張感。しかしそこで彼女が発した台詞は「実は私、自転車乗れないんです。」「あの二人には内緒ですけど。」このたった二言。このバランス感がえぐい。何を言い出すのかハラハラしているこちらと迅に肩透かしを食らわせる一言目と、ちょっと距離感を詰めてくる二言目。これでこの映画は幕を閉じるのだから、非常に良くできた作品だと思う。
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