ぐりこ

hisのぐりこのレビュー・感想・評価

his(2020年製作の映画)
2.3
今年に入って今泉監督の作品3つ目。公開2日目で舞台挨拶も拝見したけど、なんだかうまくまとまらなくて、2週間くらい経ってしまった。

とても難しいLGBTQと離婚調停というテーマに触れた作品で、わりとひりひりする時間が長かったなぁ。そして、全体としては満足のいく出来とは言えなかったように思う。

ゲイである迅(宮沢氷魚)と渚(藤原季節)が物語の中心で、渚の妻玲奈(松本若菜)と子供空(外村紗玖良)、役場の人(かな?)美里(松本穂香)が絡んでいく。
始まりは自らの性的指向がゲイであることを妻玲奈に告白した渚が、空を連れて迅の住む美濃白川にやってくるところから(白川郷の町ではない)。
物語の前半は主に白川での暮らし。そこでは、迅と渚と空の穏やかな生活が描かれ、ゲイであることも打ち明けて地域に溶け込む姿をポジティブに扱っている。空を連れ戻しにくる玲奈は、そこでは穏やかな暮らしを乱す異分子のようだ。
物語の後半は空の親権をめぐる裁判の法廷シーンが増える。渚と玲奈のそれぞれに弁護士がつき、論戦が展開されるが、それぞれの弁護士が相手方を誹謗・中傷・糾弾(と言いたくなる)する様は、見ていて辛く、離婚裁判が互いに傷つかずにはいれないことを実感させる。
最終的には、勝訴に近いと思われた渚が和解を申し入れて親権は玲奈に譲られて決着するのだが、玲奈役の松本若菜の熱演もあり胸をえぐられるシーンだった。

その後、ラストは公園で迅、渚、玲奈が空を囲んで過ごす穏やかな終幕となる。
玲奈が迅に少し心を開き、自転車に乗れるようになった空を見守るこのシーンは、ずるかった。冷静に考えれば、この先も前途多難としか思えないはずなのに、なんとなくすべてうまくいきそうな気になってしまうしジーンときてしまう。これは映画のずるさだ。構造的には何ら解決していないのに、瞬間瞬間いい景色を見せることができる映画ゆえのずるさ。


さて、改めて振り返ると同性愛ゆえに苦労する部分や裁判での玲奈の弁護士の差別的な態度から、同性愛者への同情を感じがちだが、LGBTQを受け入れるということは特別視しないということでもある。同性愛ゆえに排斥するのは論外だが、同性愛ゆえに赦されることもおかしな話。
自らの恋愛指向を偽って結婚し子供をつくった渚、そしてそれを貫かず玲奈を裏切った渚の罪は、やはり大きいと思う。
結果として、作中で最も感情移入できたのは玲奈だった。本当に不憫だ…


(雑感)
・子供である空が"無邪気に真理を突く"発言をするシーンがいくつかあったけど、これもずるい、というか子供に言わせるのは安易なパターンに感じた。
・主演の宮沢氷魚は注目の俳優さんだそうで。初めて見たけど、どこか冷めた草食な雰囲気は坂口健太郎を彷彿させた。眉毛濃いけど。
・藤原季節は髪型が90年代だった。
・かなり多くの大事なシーンをカットしてしまっているらしい。間違いなくクオリティを落としてる。そんなに2時間て大切か?
 渚×玲奈のいい感じのところカット→終始ギスギスしてるだけの夫婦で辛い
 迅×美里のいい感じのところカット→松本穂香の存在感ゼロ、急に告ってフラれる謎キャラ化
 物語のカギになる匂わせのあったセーターがフェードアウト
・タイトルの『his』とはどういう意味だったのだろうか・・・彼の?何?
ぐりこ

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