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KCIA 南山の部長たちのsomaddesignのレビュー・感想・評価

KCIA 南山の部長たち(2018年製作の映画)
5.0
イ・ビョンホンの鬱憤と葛藤逡巡ないまぜの演技が見もの

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1979年10月26日、大統領直属の諜報機関である中央情報部(通称KCIA)部長キム・ギュピョンが大統領を射殺した。事件発生の40日前、KCIA元部長パク・ヨンガクは亡命先であるアメリカの下院議会聴聞会で、韓国大統領の腐敗を告発した。激怒した大統領に事態の収拾を命じられたキム部長はアメリカへ渡り、かつての友人でもあるヨンガクに接触を図るのだが……。
1979年の朴正煕大統領暗殺事件を基にしたキム・チュンシクの原作「実録KCIA 南山の部長たち」を原作に、「イサイダーズ」「麻薬王」のウ・ミンホ監督が映画化。実話ベースだけど登場人物の名前や出来事など、映画用のフィクション。

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70年代のサスペンス映画みたいな、硬派で説明を排したな語り口。
大雑把に事前にwikiで予習してたからどうにかついて行けたけど、登場人物にパクさんとキムさんが多すぎて序盤何度か振り落とされそうになった。
おまけに政治劇でもあるので、登場人物が全員建前でしか喋らない。ボンヤリしてると誰がどういう思惑で話し、行動してるのかついて行けなくなっちゃう。

序盤の丹念なストーリー展開の下地作りが丹念な分、ちょっと退屈。大事なトコなのはわかりつつも、前述の理由もあって楽しむより理解する方に脳みそ使わざるを得ない。ホント予習大事。
(韓国の人なら授業で習ったり、関連書籍や映像作品で馴染みある事件なんだろう)

実際の事件を下敷きにした硬派なスパイサスペンス。派手さはないけど、人間の裏表の複雑さだったり、事件の新解釈こそが味。
身近なレベルに落として考えると、慕ってたはずの社長に裏切られるような話かも。志高く一緒に起業したものの、会社の為・社長の為に身を粉にして働いてたら、真面目な性格が災いしていつの間にか社長に疎んじられ蔑ろにされちゃう。それでも社長の無理難題に応え、同僚の妬みにも耐えて社長の理想を信じてたけど、徐々に信頼が揺らいじゃう。遂には決定的な事件があってブチ切れる…池井戸潤的下克上エンタメにも思える。盃を交わすシーンを考えればヤクザ映画でもあるかも。信頼してた親分が、卑近なボンクラに堕しちゃった感。大義も仁義もありゃしねえ。


イ・ビョンホンの感情を抑えた演技が秀逸。ポーカーフェイスの下に隠した野心や正義感、憧れと現実の狭間で揺れ動く葛藤が透けてみえるよう。同時に暗殺後の展望までは考えてなくて、独裁者を殺した英雄って描かれ方をしない。自分の限界を悟ったような、茫然自失とした感情ゼロの魂抜けた顔が印象的で、杓子定規の小者感漂う佇まい。イ・ビョンホンが小者キャラなのも面白かった(中央情報局トップなのでめっちゃ大物なんだけど)

閣下の描き方が面白くて、好色の独裁者って単色で描いても良さそうなのに、人心掌握に長けた一面や、最高権力者の孤独を抱えた複雑な人物に描いてる。独裁者らしいギラギラとした油っこい強欲さから遠い人物に見えた。自分の失脚を予感してるような、諦観めいた空気を纏ってるのも印象的だった。

クライマックスの長回しの見事さったら。
(盛大にすっ転ぶとこはワザとかハプニングか分からんが、部長の動転っぷりが伝わる名演)

フード描写では、閣下との三度に及ぶ酒席。仏の顔も三度までとばかりに、閣下への信頼が揺らぐたびほだされ、盃を交わす絆を確認し合う席、だったハズなのに三度目……。酒を注ぐ・受け取る主従関係も透けて見えるし、最高権力者の胸襟を垣間見るキム部長の特権だったり、喜びだったり、絆の確認だったり。
マッコリ+サイダーから洋酒へグレードアップしてく、金満さが浮かび上がるのもよかった。酒のグレードと反比例して、信頼関係と人間性が落ちてく気がした。

最後の車中で飴を配るシーン。口中に飴を放り込むなり噛み砕く様で成し遂げた興奮と、不安を予感してる心情描写として巧み。同じ車中の人たちに飴を進めるのも面白いし、参謀総長だけがそっと捨てるのも後の出来事を暗示してるよう。よく出来た演出だと思ってたら、どうやら史実通りの出来事だったとか。あんなやり取りまで残ってるのか。

28本目
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