なべ

シン・ウルトラマンのなべのレビュー・感想・評価

シン・ウルトラマン(2022年製作の映画)
4.0
 1ヶ月後に更新すると言ったけど、翌日更新しちゃいましたw

 あらかじめ断っておくが、ぼくはシン・ウルトラマンが嫌いではない。むしろ好き。おもしろかったし、童心に帰って存分に楽しんだ。でもおもしろかったから両手を上げて大満足かというとそうではなく、いうべきところはちゃんと言っておきたい。

 というわけで、以下、ネタバレを含んで全文改訂します。

 庵野の“好き”が全部乗せでできたウルトラマンリミックス。“好きじゃなかった”ところ(たぶん星野少年の存在やオレンジ色のユニフォームなど)はなかったことにし、ビートルやスパイダーも現実離れしてるからなしに。さらにより好きになれるよう、深く納得できるよう、変身・飛行の原理や侵略者の目論み、怪獣の存在理由などを埋め込んだアップデート仕様になっている。オリジナル版のストーリー自体は大好きなのでいじることなく、戦闘の手順等も細かいところまで踏襲している。
 もちろん庵野のオリジナルへのリスペクトがあり余るほどあるのはわかってる。わかるけど、やってることはオタクの二次創作と同じ。悪く言えば公私混同。シン・ゴジラのようにまったく新しいゴジラ映画を生み出したのとは違い、自分の趣味でオリジナルを上書きした印象だ。
 そりゃウルトラマンのナンバーワンのファンがつくってるんだから、おもしろくないわけがない。楽しいし、説得力もある。でもね、いい仕事をしたかと問われたら、残念ながら答えはノーだ。それでは脚本を書き下ろしたとはいえないのだよ。ただ組み替えて推敲しただけだから、“脚色”が妥当だろう。ぼくが本作をリミックスと呼ぶのはそういう理由だ。
 また、オリジナルを尊重したせいで、ノリが昭和って問題もある。リアルタイムでTVシリーズを観ていた者にはたまらなくノスタルジックでそれだけで鼻の奥がツンとなるが、いかんせん古くさいのだ(ウルトラQの世界線から続く導入部は見事で、むしろ科特対ができるまでをじっくり描いてくれてもよかった)。
 だが本編が始まると、起こっている事態の深刻さに対して、メンバーの言動が軽いことに違和感を抱く。セットはリアルなのに言葉の重心が軽くて、「あ、イデ隊員やフジ隊員のノリだ」と気づいた。1966年産の特撮ドラマは危機のなかでもシリアスにならない軽妙さがウリだったのだ(67年のウルトラセブンではもっとシリアスに、侵略のテーマも深掘りされる)。
 そういう大らかさがシン・ウルトラマンにも生かされていて、これ見よがしにアップルウォッチなんかをはめていても、ムードはとても昭和だ。別に昭和が悪いわけじゃない。
 ただ、ザラブ星人が似合わないハットを被ってマントを着ているのは(いくらオリジナルに忠実でも)恐ろしく滑稽だし、長澤まさみがスカートで巨大化する件(くだり)もオリジナルがそうだとしてもモヤモヤする。匂いを嗅ぐのもかなりきわどいし、ケツ叩きルーティンに至ってはオリジナルにないが故に(執拗にお尻のアップを撮っては)セクハラなのではと疑問を抱かれる始末。昭和な古いノリ(価値観)がそうしたモヤる描写に繋がったのだとしたら、甚だ残念。職場の悪気のないオヤジのセクハラ発言と同様、なんともいえない空気になるのは仕方ないだろう。てか長澤まさみへの執着具合がオタクっぽくてキモい。
 ついでにいうと、禍威獣とか禍特対なんて当て字もおっさんの駄洒落みたいでこっぱずかしい。いや、気持ち悪い。
 予告編でザラブ星人やメフィラス星人が出てきたことで、偽ウルトラマンや巨大長澤まさみは予想してたファンは多いと思う。ああ、そうそう、公式Twitterで時計の指し示す時間からゼットンの登場も予感してたさ(まさかあんなに使徒然としてるとは思わなかったが)。でも、そんなに詰め込まなくてもよかったんだよ。最終回まで駆け抜けなくても、ウルトラマンが飛来して平和の使者と認知されるまでをじっくり、丁寧に、新しい脚本で練ってくれればよかったのよ。
 あとCGのクオリティについて。令和になってこのレベルなの?予算がなかったのか、シン・ゴジラよりかなり粗かった。ガボラの放射線光線を受け止めるシーンのポーズはあれでいいのか? カッコ悪くない? 雑じゃない? ギレルモ・デル・トロが見たら、「CGの部分だけでもウチ(ハリウッド)でつくり直しませんか?」とか言いそう。これなら着ぐるみで良かったよ。
 おもしろいけどモンク言いたい。こんな矛盾したファン心理、わかっていただけるだろうか。
 最後に、紳士で、強くて、性悪で、人類を見下しているメフィラスを演じた山本耕史は、シン・ウルトラマンの中で最もいいキャスティングだったと褒めて終わっとく。

追記
 後日、シン・ウルトラマンを観た子供たちってtogetterを見た。カッコいい、号泣した、フィギュアの遊び方が変わった、カラータイマーを塗りつぶした等、ひねくれてない正直な感想が並んでて、ああ、「そんなにウルトラマンが好きになったのか、子供たち」と自分の考え違いに気がついた。ならもう何もいうことはない。大きいおともだちは忘れてたよ、ウルトラマンが子供たちのものでもあるってことを。

さらに追記
 4DXで2回目鑑賞。初回時にモヤモヤした部分は、さほど気にならなくなった。人間ドラマもバランスよく描かれてるなと認識を改めた。個から群へと神永の認知が変化していくのもほほうと感心した。滝くんにβカプセルのデータを託すところ、別れ際に船縁さんに笑いかけるところ、浅見の匂いを記憶し探索するところなど、群体としての人類を理解したところで、個人を尊重(信頼)し始める描写が素晴らしいと思った。人間への興味と知り得た特性の実践が、愛のある宇宙人として正しいのだ。禍特対チームを守るために政府を恫喝するところなんて、宇宙人的スケールを感じさせつつも、とても人間臭かったりする。そういう人間性の獲得の描写がわかると、意外にも泣けてくる。
 あと、人類の兵器としての拡張性を狙って、今後マルチバースの知的宇宙人から侵略の対象となるって解釈は、続編やシン・ウルトラセブンへと繋がる大きな伏線になっている気がした。メフィラスは人間のことを現生人類と呼んでたから、ノンマルトが登場するかも。うん、悪くない。どうやら三部作らしいし。

 プレミアムバンダイでβカプセルの予約受付開始。2時間半リロードしてやっと購入できた。これで変身できるぞ! いや、ぼくはウルトラマンじゃないから、ただ巨大化するだけかw
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