螢

ゴッホとヘレーネの森 クレラー・ミュラー美術館の至宝の螢のレビュー・感想・評価

3.2
画家ゴッホの後半生と作風の変遷を、ゴッホコレクターとなり美術館まで造った資産家女性ヘレーネの後半生に絡めながら、ゴッホに造詣の深い美術関係者や作家の複数が解説していく良質ドキュメンタリー。 

残念ながら、芸術なんてものは曖昧なもので。作り手がどれほど情熱をかけても、どれほどその技巧が優れていて真新しくても、影響力のある誰かが評価しなければ、価値は生まれない。そして、その価値は、純粋に技巧だけに向けられるものではなく、希少性や話題性、時代性などが添加される。
そして、そんな曖昧な「価値」は商業取引される中で、結果として「金額」に返還される。だから、その作品が好きで眺めたい・保持したいというよりは、金の形を変えた「資産」として購入し、機を見て売る富裕層や投資家が一定数存在する。

それを思えば、ゴッホの死後のこととは言え、まだまだ評価が確立されていないうちから彼の絵が本当に好きで、ゴッホが感じたのと同じように作品に喜びも悲しみも癒しも見出し、本作でいうところの、「まるで妻が修道女のようにゴッホに人生を捧げた」パトロンのヘレーネがいたことは幸せなことだったのかもと思えます。
第一次世界大戦や夫の事業の失敗という苦難があり、最後は国の手を借りながらも、作品を手放すことなく、ゴッホギャラリーとでも言えるような、今でも名を馳せる一大美術館を造ったのだから。

ヘレーネについては、前半で簡略で紹介するにとどまり、後半はゴッホの画家としての後半生と画風の変遷に注力していたので、この「ゴッホとヘレーネの森」というタイトルは少し大袈裟かな、と思う部分もありますが。

それでも、ゴッホと違い、お金でも家庭でも恵まれていたように見えてヘレーネが抱えていた悲しみやゴッホとの共通点についてはとても興味深かったし、ゴッホに造詣の深い人々のそれぞれの視点からの簡潔なゴッホ解説はとても面白く分かりやすかったです。

特に、ゴッホの画風の著しい変遷を、これほどコンパクトにまとめて説明してくれたのは、とてもありがたかったです。
農民を描いたオランダ時代、パリに渡って当時人気だった印象派を中心に色々な技を盗んで著しく画風を変えていったこと、アルル時代のこれぞゴッホタッチといえる特徴的な力強い渦巻とうねり。そして、最後の時を過ごしたオーヴェールにおける、うねりを取り去った画法…。

90分と短いですが、しっかりまとまった満足度の高い作品でした。
いつかオランダにあるクレラー=ミュラー美術館に行きたくなりました。
螢