きざにいちゃん

1917 命をかけた伝令のきざにいちゃんのレビュー・感想・評価

1917 命をかけた伝令(2019年製作の映画)
4.1
今更ながらの初見。
なかなかの秀作だった。
観ながら感じたことはーー

「あぁ、これは走れメロスだ」

である。

メロスは親友のセリヌンティウスとの友情と、命をかけて正義を訴える為に走ったが、スコフィールドは何の為に走ったのか…
戦友のブレイクの為もある。1600人の同胞たちの命を救うという使命感に燃えたから、というのも大きい。しかし一番の理由は、「そうせよと言われたから」である。
これは斜に構えて言っている訳でなく、それこそが憎むべき戦争の本性なのだと思う。

被占領地帯を強行突破せよ、などという非合理を合理に捻じ曲げてしまうのが戦争であり、悪を善にすり変えてしまうのが戦争である。いかに不合理で馬鹿げた命令であっても、兵士たちは忠実にそれを受け入れざるを得ないし、進んでそうしよう、そうすべきだ、と考えてしまうことも少なくない。

第一次大戦でも第二次大戦でも、今なお起きている戦争でもみな同じように、戦争には母国と愛する者たちを守る為に忠実に命令に従い、死んでいった沢山の兵士たちがいる。スコフィールドが生きて任務を達成できたのはたまたまに過ぎない。彼は結果として英雄になっただけで、身体を引きちぎられて死んでいった多くの兵士たちと何ら違いはない。スコフィールドもまた、名もなき兵士のひとりに過ぎないのだ。この作品でスコフィールドがどんな人物であったかという余計な背景を一切描かないのはその為である。それは、この映画を見ている観客のひとりひとりもまた同じなのだというメッセージであるよう思う。この映画がワンカット的な技法を使っているのも、スコフィールドを通しての三人称視点が、いつのまにか一人称にスイッチする為の装置だからである。それは、すなわち「戦争を一人称で考えてくれ」というこの作品の強い反戦のメッセージなんだと思う。