KnightsofOdessa

1917 命をかけた伝令のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

1917 命をかけた伝令(2019年製作の映画)
3.0
[カメラが三人目にして最強のキャラに…] 60点

第一次世界大戦を描いた作品って本当に少ないなと思いながら、本作品がなぜ第一次世界大戦を描いているのかを必死に考えながら観ていた。2時間の長回しの映画となれば、それはメイキングや苦労話の方が面白いのが常だからだ(だからこそ『カメラを止めるな!』が成立したんだろう)。そして、全編ワンカットという手法はこれまで少なからず採用されてきた過去もあり、新鮮味や表現の進化という点でも語ることはできない。フィールドを次々と移動する特性上、『ヴィクトリア』のような尺伸ばしは存在しなかったが、疑似ワンカットなのでそこを評価するのもズレている。しかも、『ダンケルク』のような映像美で戦場をゲームのように再構築した本作品の結末は、"命令を届けられる or 届けられない"の二択に終わることは予告編からですら分かり、『バードマン』『ヴィクトリア』のように"次に何が起こるか分からない"という状況とも変わってきてしまう。冒頭10分でこれらのことを考え終え、残された100分は軍服に身を包んだ英国イケメン俳優たちを愛でるか、第一次大戦をなぜ描いたのかを考えるかの二択に落ち着く。そうして冒頭に戻ってくる。なぜ一次大戦なのだろうか。

ハリウッドで二次大戦が多く描かれる理由は大きく二つあるらしい。一つ目は、映像や音声、経験者の存在などによりリサーチがしやすい点にある。実際、本作品の脚本家であるKrysty Wilson-Cairnsは執筆にあたって、何十年も前に絶版になった本を探したり、実際にフランスに行ったりして調査を進めたらしい。オンラインには資料があまりないとまで言っていた。二つ目にして最大の理由として、ナチスという巨悪に連帯して対決するという構図を作りやすいことにある。日本でも取り敢えずヒトラーなりナチスなりを邦題に付けて公開するのが流行ってるくらいだから、これは説明不要だろう。これらの理由から、二次大戦を題材にした映画は一次大戦に比べて作りやすく分かりやすい傾向にあることが分かる。

100分間考えていた"なぜ一次大戦なのか"という疑問には、最後の最後で漸く答えてくれる。"従軍経験を話してくれた祖父に捧ぐ"という字幕が出てくるのだ。都会で育ったサム少年にとって田舎で暮らす祖父は異質に映ったらしい。そんな祖父が何分も掛けて手を洗う癖を不思議に思って訊いたところ、塹壕の中で泥まみれだったことを忘れられないと言われたという。それ以降、サム少年は19歳のアルフレッド・メンデス青年が経験した一次大戦の話を聴き始め、それが従来のような"ヒロイックで勇敢な物語"とは異なっていることを知る。そして、1917年10月。プールカペッレの戦いで1/3の兵士を失った部隊は彷徨い歩いており、アルフレッドは彼らをキャンプへ無事に帰すためのミッションを買って出た。これが本作品の下敷きになっているらしい。

また、一次大戦はこれまでの戦争とは異なり、本格的に人を殺すことが求められた近代戦争の幕開けでもあった。だからこそ、ピーター・ウィアー『誓い』に登場するオーストラリアの若者たちはこれまでの戦争に求められていた愛国心を元に、スリルとアドベンチャーを求めてピクニックのような感覚ででトルコ行きを決意していた。そして、今になって戦禍を忘れた戦後世代の人々が、再び戦争に発展する火種を大きく振り回し始めたのだ。メンデスは本作品製作の一つのきっかけをブレクジットにあるとしている。一次大戦前夜のような空気が流れている、と。

★以下、多少のネタバレを含む

さて、最大の問題に決着が付いたところで映画に戻ろう。本作品の最大であり唯一の特徴である長回しはやっぱり凄い。メンデスはどこを何分で通り抜けるかまで計算してセットを組み上げ、ディーキンスはセットのミニチュアを作って閃光弾の作る陰影や光る時間まで計算し、4ヶ月もリハーサルを重ねたらしい。遠くでドッグファイトをしていた飛行機がこちらに突っ込んでくるシーンや、塹壕の中で上官を探すシーンを一発で撮った迫力は凄まじい。カメラも高性能かつ軽量なものを選ぶことで、人の手で担いだりドローンに括り付けたりクレーンに取り付けたりをシームレスに行えるように工夫したようだ。そして、そもそも撮影には塹壕や廃墟やノーマンズランドなど広大なフィールドが必要で、精巧に作られたセットには製作側の熱量が伝わってくる。

しかし、映画はそこで止まってしまう。二人の兵士との短い時間を共有したカメラは我々の目線ではなく三人目かつ最強の登場人物となって映画に君臨してしまい、二人の地獄めぐり以上に過酷であろう裏方のことを考えずにはいられなくなってしまうのだ。二人が駆け巡る戦場はフィクションであって実際に撃たれることはないが、カメラマンたちは本当に映画をお釈迦にするかしないかの線上で戦っているじゃないか。実際、ラストのシーンではスコフィールドがエキストラの兵士にぶつかって転ぶなど、入念にリハーサルした脚本にないシーンも出てきている。長回しのせいで、全く集中できないし、その意義もあまり感じられないし、結局ずっとモヤモヤと一次大戦について考え込むことになってしまったのは上記の通り。

『ゲーム・オブ・スローンズ』でトメン・バラシオンを演じたディーン=チャールズ・チャップマンの兄が、同作でロブ・スタークを演じたリチャード・マッデンになっててちょっと感動した。全然花咲かないゲースロ組の未来を感じた。あと、正直なところ、"How to Make 1917"の方が楽しかった。撮影技法について語るディーキンスの目がキラキラしてたもんね。セルフで『カメラを止めるな!』をやって、勝手に盛り上がってるのが一番いい見方なのかもしれない。