全編ワンカット風というのは近年では『バードマン』がありましたが、今回はずっと話がシンプルなため、よりストイックに「技術の映画」として楽しめると思います。
天才ロジャー・ディーキンスが腕をふるった、目を疑うようなクールな画がいくつもありました。
特に照明弾の明かりで建物の影が生き物のように蠢く異様なシーンは、息を呑むほどに美しく、圧倒されました。
わずかな平穏と地獄をテンポ良く行ったり来たりするのは、誤解を恐れずに言うならば「楽しい」感覚をもたらせてくれます。
ただし、その一方でフィクション性を強調する結果にもなっていたと思います。
次々と起こる出来事や、主人公の感情の揺れが乱暴で矢継ぎ早に見え、画的なカタルシスと乖離してしまったという印象は拭えません。
『彼らは生きていた』を観ていたこともあり、塹壕戦の悲惨さは自分の中で補いながら観ることができましたが、それにしてもやはりショック度は弱すぎたのではないかという気もします。
そういう意味で良くも悪くもお行儀の良い
「アカデミー賞らしい」作品だと思いましたが、結局のところアカデミー賞の主要部門は何も取れず、なんともお行儀の良くない『パラサイト』が圧勝してしまったことは、改めて振り返ってみても凄いことだと思います…!