はる

1917 命をかけた伝令のはるのレビュー・感想・評価

1917 命をかけた伝令(2019年製作の映画)
4.0
DolbyCinemaで鑑賞してからしばらく経ったが、とりあえずその時のフラッシュな感想と気になったことなどをまとめたい。
やはりロジャー・ディーキンス一流の「どう撮ってるんだ」という撮影が気になりながらも、WW1における西部戦線の塹壕描写など序盤でのつかみは本当に素晴らしかった。
早い段階でスコフィールドの掌に刻まれる傷痕を見て「おや」と思うのだが、それに関わらずブレイクとスコの道中での色々な出来事と、その映し出し方の多彩さとクオリティをコントロールし続けたサム・メンデスとディーキンスの手腕に唸るよりない。
主役たちに与えられた命令を思えば、いきおいこれまでにあまりない作品になるのだし、しかも今作は映像の精緻さを真実味に寄せるのではなく、寓意に満ちた祈りの物語に向けて仕上げたところがユニークで面白い。撮影前の段階でリハーサルを半年行ったというのもわかる創意も素晴らしく、ああ見えても最長のショットは8分程度だという。
暗く凄惨なものだと認識していたWW1の前線で味方を助けるために走り続けるという物語は、やや意外な印象も受けたが、ラストの感動は余韻の残るものになった。

さてネタバレ。
スコの遍歴には掌の傷(聖痕)、ワイン、パン、ミルク、処女と子供、など寓意を隠すことなく描写されていたが、あのミルクを飲む辺りで「そういう話なのか」と確信することになる。だから、スコが中盤以降、ドイツの狙撃兵との銃撃戦で気を失ってから、夜の市街地では銃を使わなくなったりという違和感が違和感でなくなった。ちなみにあの気を失うくだりで画面がブラックアウトしたときはDolbyCinemaならではの完全な闇と無音を体験した。これは映画館では初めての経験だったと思う。そしてあれが唯一の明確なカットとなっていた。

あの塹壕でのカメラワークも目を引いたが、今作の鑑賞後にキューブリックの『突撃』を久しぶりに再見すると、キューブリックはやはり凄いなと思った。あの時点であれほどの撮影をまとめ上げたという事実。『突撃』を観ると、前線の将校と後方で指揮を執る将校との意識の差がよりはっきりとするので、それを今作に持ち込むと補完できる描写があった。

今作はオリジナリティを強く感じたかというとそうでもなく、イニャリトゥ&ルベツキという先達が近年で観せてくれた幾つかの作品を思い返すことにもなった。
また印象的な終盤の突撃シーンで、スコが横切っていくところは素晴らしかった。銃剣を持って突撃する兵士の間を抜けて走るというのは自殺行為だと思うが、リアリティはともかくヒロイックな描写でグッとくる。ちなみに2回ほどぶつかっていたが予定外のことらしい。それほどに全員が本気で走っていたからこその迫力だったと思う。
近年の戦争映画とは一線を画すものになっているし、その行為の悲惨さをあえて直接的に打出さずに少しでも希望を見出せるような作品にもなった。そこが良かったなと思う。
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