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1917 命をかけた伝令のsanbonのレビュー・感想・評価

1917 命をかけた伝令(2019年製作の映画)
4.0
圧巻のロケーションにウットリ。

今作は「全編ワンカット」という触れ込みで話題になっている作品ではあるが、思ったよりも編集点が丸わかりな為、そこに注目して観ると正直肩透かしを食らってしまう事になるだろう。

今思えば「バードマン」でもそうであったように、ワンカットと聞いてまず真っ先に想像するのは、実は「リアルタイム」で物語が進行するような類いのものなのである。

その為、その言葉を聞くと起点から終点までを上映時間と"リンク"させた前提で、一発撮りのような臨場感を味わえる事を期待してしまうから、あるシーンでふと移動距離が割愛されたり、昼夜が急転したりすると異様な違和感を覚えてしまうのだ。

なので、今作はワンカット"風"と呼ぶにも、繋ぎ目や時間軸の概念があまりにそのコンセプトに則れていない印象を受けてしまうから、日本の宣伝は確実に言葉選びを間違えたと思う。

それを言うなら、この作品でやっている事は言わば"演劇"の演出法と同じ「シームレス」なのである。

演劇は、板の上だけで場面や時間軸をセットや人物を動かして展開させていくのが特徴的だが、それを踏まえて今作を思い返してみると、壕内での爆発での明滅や、建物を隔てた場面転換などによる時間軸や次の展開への移行などが、非常に演劇的と言えるのだ。

要するに、今作は明らかに"一発撮り"ではなく"繋ぎ目なし"での演出を目指しているのだから、宣伝文句は確実にズレている事が分かる。

そして、そんな事よりも個人的に最も目を惹いたのはロケーションの圧倒的な雄大さである。

世界にはこんなにも美しい風景が存在しているのかという驚きと、そんな場所でさえ人は死体と瓦礫と兵器の山で破壊し、残酷な景色へと変貌させてしまえるという事実が、なんとも言えない打ちのめされた気持ちにさせる。

今作は、主人公の限られた時間内の一部始終を追体験するだけの内容である為、物語的な部分での描き込みはどうしても後手に回ってしまう傾向にあるのだが、それを代弁して補完する役割をこの"自然"が担っていたと感じる程であり、それ程までにロケーションの美麗さと戦争の愚かさのコントラストは非常に鮮烈であり、そこにこそ感情を打ち震わせる感動があると感じた。

また、いくら地図が頭に入っているからといって、あれだけ敵兵から逃げ惑い激流に流されながらも、進行方向を見失わずにきちんと定刻ギリギリには目的地に到着出来るというのは、いくらなんでも都合が良すぎ感は否めず、この手法を選んだからこそ悪目立ちしていた印象だったのだが、それすら最後の最後に実話を基に構成している事をほのめかす事で、グッと信憑性を近付けてきたのには「サム・メンデス」監督のクレバーな戦略と抜け目のなさを感じるところでもあった。
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