あまがっぱ

マーティン・エデンのあまがっぱのレビュー・感想・評価

マーティン・エデン(2019年製作の映画)
4.5
時代設定には違和感があった。
原作と映画のこの隔たりのせいで、主人公の意味合いが大きく変わっている。
「適者生存」を唱えたハーバートスペンサーに熱狂する主人公の意味合いが、WW2前と後ではえげつないほど変わってくる。


ただ、独学で何かを成そうと志している人にとって、情熱を与えられつつも、もの悲しい社会の本質を垣間見せてくれる作品。

アメリカが舞台の原作なのにアメリカが映画化しないのは、アメリカンドリームを興醒めさせるような展開をアメリカの大衆が望んでいないからだろう。

この度の映画化は、舞台をイタリアに移しつつも、ロマンスたっぷりの良作に仕上がっている。
時代もかなり進んでおり、マーティンだけが時代錯誤な人間に思えた。どの家にもテレビのある時代に高額な原稿料をもとに新人作家が成り上がれるはずがない(泣)
原作当時のスペンサーと、すでにテレビが普及し(テレビの上にはヘリコプターのおもちゃまである!!)Mフーコーらが活躍している時代でスペンサーに熱狂しているのでは意味合いが大きく違ってくる。

若干ロマンスにフォーカスを置きすぎているので、マーティンの知や教養に対する恥じらいや畏れというものをこの映画では感じられにくかった。原作で描かれる社交の場でどう振舞っていいかわからず本来は卓越しているはずの身体感覚まで揺るがされるような経験をするマーティンや、社会主義者の若者が集うサロンで初めて真っ向から思想を語り合える仲間を得られた歓びに浮かれるマーティンが僕にとっては魅力的だったので、、、。

でも良質な映画です。