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オフィサー・アンド・スパイのDONのレビュー・感想・評価

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ポランスキーが描くドレフュス事件。重厚で飽きさせず、特に法廷場面の緊迫感たるやさすがの演出。だが、所々に自作の焼き直しが散見されるなど、全盛期の冴えはない。

最も致命的なのは、「史実」に忠実な脚本が足枷と感じられてしまうことだろう。欧州におけるユダヤ人差別の端緒である冤罪事件を描くにあたり、ポランスキー自身の「罪」と「疑惑」がそこに重ねられていることは監督本人も否定してはいない。しかしそれゆえに、一点の曇りもない冤罪の悲惨さとそれを立証することにばかり躍起になっている。

冤罪を証明するピカール中佐を演じるジャン・デュジャルダンは実直で純粋だが、それ以上の魅力は感じられない。妻子ある婦人との不倫という「影」もあるにはあるが、最終的に結婚を申し込むという解決を用意してあるので、そこには例えば『チャイナタウン』のジャック・ニコルソンや『評決』のポール・ニューマンのような拭い去ることのできない「翳り」は見られない。そして、そのような翳りがないからこそ、ポランスキーはこの題材を選んだともいえるのではないか。ただひとついえることは、「言い訳」としては一級品であるということだ。
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