こたつムービー

オフィサー・アンド・スパイのこたつムービーのレビュー・感想・評価

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アンチクライマックス、と言うべきか。
実話ならではのカタルシスのなさ。いや、年月掛けじわじわと好転してゆく様は逆にリアルだ。

この黒をなんとか灰色に持ってく感で終わる感じがまさに現代の映画となったように思う。誰一人和解してない、のだから。

これは「外交」にまつわる映画だった。
そして多くの人間にとって、玄関をでたらすでに外交の始まりなのだ。

またこの映画は外様としての上司経験者、もっと言って(理想に燃えて)官公庁の長官になった人などは咽び泣くだろうね。
それくらい内憂外患政治映画であり、また「現代もどれだけ違うのか?」と問うている。面子のための握りつぶしなど、ありふれているではないか。これは時代劇では決してない。ヘイトや差別含めて余裕で。

そーれーをポランスキーが撮る。
っつーモノ凄い構図でもあり、監督本人とプロデューサー、はたまた出演者を褒め称えたい。日本は全くこの域に到底達しない、遥か先の先だ。
(「新聞記者」でさえ主演を誰もが逃げたからシムウンギョンがやったような、腰の引けた感じだもんよ。到底このレベルの映画を作れないだろ)

131分の長さを感じなかったのはポランスキーの手腕だろう。また当時の風俗面はまさにベルエポック、ピカソの「ローランガレ」であり、クロードモネの「草上の昼食」サブリミナルが気持ちいい。しかも「よく街並み残ってるねえ」と感心する(フランスでもギリギリだろうが)。

反面、撮影では全体的にライティングが気になった。影もあかるく輪郭くっきりで全編にわたり「これブルーバック?」みたいな照明設計は大きなマイナスだな。美術と衣装は素晴らしすぎた。

しっかしドレフュスもピカールもメンタル強え。だって復職した上に階級あげてっからね。ドレフュスは失職分くれ、と。でもあのラスト、オレは好きだな。センチメンタル方向ではなく金の交渉ってのがさ。なんとも味わいがある。

デュジャルダンは「アーティスト」とはまた違う佇まいで本作を引っ張っていた。
それと、将軍。
裁判所へ向かう勇ましい様は乃木将軍かと思ったわ。笑。どの国もオールドスクールの英雄像に違いなし、だ。

もう一人、デュジャルダンの好敵手となるアンリ役グレゴリーガドゥボワの官僚的な喰えない具合が素晴らしく、その名演を挙げておきたい。