生きている間が人生です
結構特殊な「生い立ち」の映画である事を踏まえて考える
誰もが息を呑むであろう冒頭のサスペンス的な長回しシーンは、元々短編として完成したもので、それをあくまで「主人公のその後」を描くという方向性で長編化した映画とのこと
謂わば「蛇足」のような映画
主人公にとっての「価値ある人生」みたいなものはあの時…短編の時点で「終わっていた」のかもしれない（事件現場であるビーチで働いているあたり何かしらの希望も残っていたのかもしれないが、表情から察するにそれも色褪せた様に思える。この辺が疲れた年上女性の色気にも見えて、少年の主人公に対する好意の源泉の説得力にも繫げているのだろうか。）
彼女が喪失感を抱えながらも歩み続ける蛇足の人生を再度「生き直す」までの心の機微を丁寧に描いた映画
本作のラストの後も勿論「主人公のその後」は続くのだ
件の冒頭は状況を記録するような人物から距離を置いた撮り方だけども、「電話の向こうの相手の声」という「主人公にしか聞こえていない音」が聞こえている点からも、なるほど映画が「事件」自体には興味のない作りであることは明白だ
それでいて客観的に主人公を捉える様な描写も結構あって、この辺は主人公も自分の感情や行動のその「不道徳さ」を半ば自覚しているという事でもあるのか（携帯で撮影された車内のくだりや、少年の家族の主人公に対する描写など。冒頭も主人公を見送る母親のショットで終わるので短編の時からその視点は変わらずあったのだな。）
今更ながらに…最近観た「女性が主人公の映画」を考えると、ことごとく「他者」というものを意識せざるを得ない
自分とは全く違う思考体系、行動理念を目の当たりにするのは恐怖であり、感動的でもある
それを感じさせる映画群の根底にあるのが「愛」だとすれば、僕はまだそれの半分も理解していないのだなあと（女性だから愛でしょという安易な仮定は差別的なのだろうし、自分は男だから分からなくても仕方ねえわという言い訳でしかないんだろうけど、まんざら芯食ってないわけでもないと思う。）
少年の元カノが踊ってるのを挟んで２人が見つめ合うシーン（元カノがそれに気づくのも含めて）とか映画の巧さを感じるシーンが多くて、分からない感情を分かった気にさせてくれる
