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異端の鳥の小のレビュー・感想・評価

異端の鳥(2019年製作の映画)
4.0
長尺で、映像がタルコフスキーを彷彿とさせるから集中力を持続するのがまあまあ大変だったけど、ストーリーと言いたいことはシンプルだと思う。本作の手柄は、観る人によれば、最低このうえないようなことを怖れずに描き、無垢な少年が落ちていく様子をリアルに感じさせるという、演出、映像にあるような気がする。

少年は様々な場所で、様々な大人と出会い、残酷なことを目の当たりにしたり、自分が受けたりしながら、人として転落していく。何故かと言えば、まだ経験から学べるほどの年齢ではなく、<単に周りの大人の振る舞いを見て、それを真似しているだけなんだ。それが普通だと思ってしまう。これでいいんだ、と。これほど恐ろしいことはない>(ヴァーツラフ・マルホウル監督)ということらしい。
(https://i-d.vice.com/jp/article/pkyja9/vaclav-marhoul-interview)

自分が恐れを抱いた相手は暴行して良い、不快な人は突き落として良い、嫉妬や怒りに狂ったらひどいことをして良い、弱っている人は死んで良い、死んでる人の物を奪って良い、やられたらやり返して良い--。

最後は人間の冷たく、残酷な部分を自我の大部分に取り込んでしまった少年ではあるけれど…、みたいな感じにはなるものの、そこがポイントではないだろう。

<思うに、人がいろいろなことに気付くのは、真逆の立場に置かれている時だ。戦争時に、平和に生きることの大切さに気付く。いまはコロナ禍にあるけれど、だからこそ健康の大切さに気付く。暴力があるからこそ、優しさといった感情に気付くといったように>(マルホウル監督)。
(https://madamefigaro.jp/culture/series/interview/201008-itannotori.html)

<善とは何かを理解するためには、悪を知らなければならない>(マルホウル監督)。本作は、世界から残酷さを減らす、逆に言えば慈愛を増やす方法を示すために、悪をリアルに描こうとし、それを怖れることなく実行したように思える。

嫌悪感を抱く人も多いと思うけれど、実はそういう人ほど、善とは、慈愛を増やす方法とは、について良く知っているのかもしれない。
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