なみつ

異端の鳥のなみつのレビュー・感想・評価

異端の鳥(2019年製作の映画)
3.7
思ったより大丈夫でした。
なによりこのポスターなので、ふだん鑑賞前はしないけど他の方のレビューも見て相当の覚悟で臨みましたが、案外直接的な描写は少なく(なくはないけど)、モノクロなのも手伝って、そんなにびびらずまっさらの状態で観たほうがよかったかな?と思いました。
うーんでも知らなかったらやっぱりきつかったかも、先が見えなくて。
いっしょに観た人との共通見解は、「日が出てるうちに観てよかった」。仕事帰りは避けてよかったです。長いし。
このポスターの状態になるいきさつが想像のはるか斜め上でした。


すごく、綺麗。壮大な景色がどーんとあって、そこにぽつんと主人公がいる、みたいな情景が何回かあってその度はっとさせられる。森、町、家、水、動物、武器、一つ一つがなんだか、ぜんぶ愛しいものに感じる。モノクロなのに。モノクロだから?綺麗というのは、言葉にしづらいけどbeautifulよりneatという感じかも。

変な人ばっかだったなーと、観終わった今だからこそちょっと半笑いで振り返ることのできるエピソードもいくつか。戦争ゆえに、もあるけど、国も時代も関係ない、普遍的なものも多々あった。

鳥のおじいちゃんにしがみつくところと、とっさに靴磨きをし始めるところはこれまでの主人公くんの経験がにじみ出ていて、涙が出そうになりました。

理不尽だらけだけど、自分ができることは、自分が今、そういう状況にないことがどれだけ幸運かを感謝することしかない。被害者側だけじゃなくて、加害者側としても。責めることは簡単だけど、一歩まちがえたら自分だってああなる可能性がある。から。


観てよかったかどうかだと、綺麗だったし、最後良い意味で心にくるものがあったので、なんだかんだでよかったです。そこまで長くも感じなかったです。
なにより!!バリー・ペッパーなんですよ!実はグリーン・マイルで「なんだこの端正な顔立ちの方は!!」と驚いてから密かに機会をうかがっていたのですが、ついぞ映画で目にすることはなくきてしまっていたのに、まさかここで、この映画で、しかもこんな激渋の役で拝めるとは…主人公くんの背中の傷を見たときの察した表情がたまらなかったです。鑑賞側としてもそれらを見たのはここが初だったので、その衝撃も相まって。


思ったより大丈夫と冒頭に書いてしまったけど、思ったより凄惨・残酷というレビューも見かけてちょっと無責任だったかもという気がしてきたので、自分用の振り返りも含めて流れを書いておきます。


※以下すべてネタバレ




・追いかけられ、殴られ、抱えていた小さな動物(犬?)に火をつけられる。のたうちまわる生物。
・いっしょに住んでいるおばさんとの生活。家族の写真を見つめる。「迎えに来て」と書いた絵を帆にした小さな舟を川に流す。(おばさん自身は特に嫌な人ではない)ある日おばさんがぽっくり逝く(ほんとうにびっくりするくらいぽっくり)。家燃える。
・行き着いた村で村人たち囲まれ、農具などで突かれる。袋に入れられ、鞭打たれる。村人たちから一目置かれている魔女らしきおばあちゃんに悪魔だと言われるが、買われ、助手として働く。ある日熱が出て、(おそらく治療として)魔女に埋められる(ポスターの状態)。翌朝カラスに突つかれるが、間一髪で魔女がきて追い払う(それなら傍にいといたれよ)。別のある日、魔女のいぬ間に村人たちにどやされ、逃げるうち川に流される。
→ポスターを見たときは、どんな悪意や憎しみがあったらこんな状態になるんだと思っていたのですがまさかそんなスピリチュアルな理由。おばあちゃんあの穴ひとりで掘ったのかなりすごすぎると思う!そして結果それで治ったの?
・粉引き小屋らしき家に流れ着く。夫婦と使用人の男の3人。住み込みで働き始める。年老いた夫は若い妻が使用人とできていると疑いDV。ある日ついに爆発し、使用人の目玉をスプーンでくり抜く。主人公、翌日旅立つ。途中、使用人が呻きながら倒れている。拾っていた目玉を両手に握らせる(目玉のない使用人と、眼球のぷよっとした感じはかなり気持ち悪い)。
・鳥などを飼って売買いしているおじいちゃんちにたどり着き、住み込みで働き始める。ある日謎の若い女が裸で現れ、そのままおじいちゃんと営む(謎)。おじいちゃんは飼っていた鳥に色を塗って群れに放す。鳥は群れから総攻撃を受けて落ちる。女はところ構わずいろんな男(含少年)を誘惑していたので、ついに少年の母親らしき女たちにリンチされる(「これでも食らいな!」と瓶を突っ込まれる描写がある)。自分も攻撃を受けながらも女を保護するおじいちゃん。その直後、おじいちゃん首吊る(謎)。主人公は助けようとするが無理だとわかり、おじいちゃんにしがみつく。(苦しみから早く解放してあげるため?) 飼われていた鳥をすべて空に放つ。
→このエピソードの塗られた鳥が映画のタイトルになっていて、ここで主人公くんは、自分はこの鳥なんだと、悟ったのですよね。おじいちゃんがなんでこんなことをしてたのかかなり謎ですが、数少ないストレス発散ということなんでしょうか…相当趣味悪いけど、人間に向かないだけまだマシということなのか?
・森でけがをした馬を発見。「助けてあげるからね」。村に連れていく。けがをしているのでその場で殺される。(自分の記憶では、このときのやめて!の叫び以降主人公くんのセリフがない) 村にソ連軍やってくる。宴会。軍人のそそのかしで、ナチス軍基地に連れていかれる。殺されるはずだったが、一人の軍人が逃がしてくれた。
・列車で連行されるユダヤ人たち。走る列車から逃げ出すが撃たれる。主人公は遠くから見ている。軍人たちが去ったあと、倒れる子供から靴を奪う。麦畑でおじさんと共に捕まる。
・ナチス軍基地(先ほどとは別の)に連行される。おじさん抵抗して殺される。主人公はとっさに軍人の靴を拭き、解放される。司祭に保護されるが、司祭は病気なので、ミサにきていた男が主人公を引き取って育てることを申し出る。男は主人公に仕事をさせるが、失敗すると虐待した(ベルト的なものでびしびしやるめちゃくちゃ痛いやつ)。毎晩犯した(映像はなく、主人公の泣き声が夜に響く)。主人公は男をネズミがひしめく穴に落として殺した(悲鳴のみ)。司祭は病気で死に、これまで主人公をよく思っていなかった村人たちはここぞとばかりによってたかってどぶに落とした。服を乾かして、旅立つ。
→個人的にこの男に受けた仕打ちが一番観ててしんどかった。なぜなら今、この瞬間にも、こんな思いをしている人たちが世界のどこかにいることを、思い出してしまうので…主人公が初めて、自らの意思で人を殺したエピソードでもある。
・雪の中、おじいちゃんの介護をする若い女に保護される。「いたければいていいわよ」。住み込みで働き始める。毎晩(?)自慰をする女。おじいちゃん死ぬ(自然死のはず)。女は主人公に、自分の脚にキスさせる。ある日女に覆い被さられ、殴られる。次の日、冷たくされ、役立たずと罵られる。(役立つところをアピールしようと?)魚捕りカゴを作って見せようとするが、ヤギとの営みを見せつけられる。作ったカゴを自分で壊す。ヤギを吊るし、生首を女の家の中に放り投げる。通行人を待ち伏せし、殴って持ち物を奪い、旅立つ。
→前半、あれだけ動物を大切にしていた主人公くんの豹変ぶりにショックを受けるエピソード。ところでこの女は主人公くんと本当に行為に及ぼうとして、でも男性として機能しなかったから冷たくしたのか、もともとそんな気はさらさらなくたぶらかしているだけで、主人公くんが勝手に初恋に盛り上がってしまったのかがよくわかりませんでした。それにしたってさ…
・コサック(遊牧民のような人たち)に襲われる村。ソ連軍が現れて駆逐する。(どこにいたのかちょっとわからなかったけど)戦争孤児として保護された主人公は、一人の軍人(バリー・ペッパー)と同じテントで過ごすことに。軍服を着せられる。ある日、野営地から出たために地元住民に襲われた軍人たちが4人ほど、重傷を追って帰ってくる。次の日、バリー・ペッパーは村を狙撃し、(たぶん数人の)地元住民を殺す。「目には目を。歯には歯を」。主人公は孤児院に行くことになる。別れの日、餞別として銃を渡される。
→ソ連軍人たちの言葉は主人公くんには通じていないんだと思うけど、まったく言葉を発しなくなっているのでよくわからない。
・孤児院へ。出かけ先の市場で男に「ユダヤ人は有刺鉄線の中がお似合いだ」と殴られる。後日後をつけ、銃殺する。父親が迎えにくる。「仕方なかった」と言う父親を受け入れられない主人公。「自分の名前も忘れてしまったのか?」と、父親は悲しむ。バスでの帰り道、横で眠る父親の手首に番号の判があることに気付く。曇った窓に自分の名前「ヨスカ」を書く。
→手首の番号を見て、父親にも並大抵でない苦労があったと悟ったんですよね。そこからの名前を書く流れはなんだか、込み上げてきましたね。
それにしても、よくある話だったら孤児院のところでいじめっ子たちを目の当たりにして絶望するところなのに、この映画だとそこまでの人生が壮絶苛酷すぎるため、ちょろい感がすごかった。
なみつ

なみつ