ひこくろ

エマ、愛の罠のひこくろのレビュー・感想・評価

エマ、愛の罠(2019年製作の映画)
4.2
何やら意味ありげなオープニングから、展開されるのは不穏な物語。
そこに、妖しげなダンスシーンがかぶさり、得体の知れなさはどんどん加速していく。
のっけから、最高のつかみだった。

何が起こったのか、いまどうなっているのかは徐々に明かされていくが、肝心な真相は何もわからない。
ただ、とんでもなくヤバいことが起こったのだろうことだけはわかってくる。
何があったのか。なぜ起こったのか。謎を引っ張る、このミステリアスな展開にはゾクゾクさせられた。

すべての鍵を握るだろう少年ポロを終盤に至るまでほとんど描かない構成も上手い。
が、それよりもさらに、苛立ちや、言語化できない思いを、ダンスという身体表現で代弁してみせたのが秀逸だ。
自分のことをほとんど語らないエマは、その代わりとばかりにダンスを踊りまくる。
そのダンスから、「言葉にならない」彼女の熱い思いが強烈に響いてくる。
彼女にとっては、セックスもダンスと同義語なものなのだろう。
だから、大量にセックスシーンがあるのに、それがまったくいやらしく見えない。
むしろ、必死に彼女が叫んでいるように見えてきて、胸がせつなくなってくる。

夫婦、親子、愛情、セックス、友情、苛立ち、家族、生きる理由……。
いろんなものの意味が曖昧になっていき、ぼんやりと溶けていく。
その中で、ダンスだけがギラギラと輝き、なんだかわからない何かを主張して、わからないままに強引に納得させられる。
とても不思議な映画だった。
ひこくろ

ひこくろ