幽斎

秘密への招待状の幽斎のレビュー・感想・評価

秘密への招待状(2019年製作の映画)
4.0
恒例のシリーズ時系列
2006年 4.8 EFTER BRYLLUPPET デンマーク/スウェーデン合作、オリジナル
2020年 4.0 AFTER THE WEDDING ハリウッド・リメイク、本作

オリジナルは「北欧の至宝」Mads Mikkelsen主演、と言う魅力に留まらず、人生の哀しみと喜びが凝縮され観た人の魂を揺さぶり、世界中で絶賛された。男性が求める女性の母性を描く、アンビバレンスな作品。劇場で観た時はヒンディーと英語とデンマーク語が交錯し、分り難い点も有ったが円盤化された英語字幕が秀逸で、アウフヘーベンな世界観を解り易く説いてくれる。アップリンク京都で鑑賞。

オリジナルのマッツ様と同じデンマーク出身、Susanne Bier監督の独創的なタッチングで描かれた邦題「アフターウェディング」。世界中からリメイク依頼が寄せられ、アメリカではハリウッド・メジャーを含め一年に渡る争奪戦を展開。勝利したのが意外な人物と裏で暗躍した、ハリウッド女優。プロデューサーJoel B. Michaelsは過去作「ターミネーター3」「氷の微笑2」口に出すのも憚れる失敗作揃いで、1938年生まれの彼は人生の最後を掛けて全財産を投げ打ち、デンマークの製作会社から権利を獲得。問題は秀逸なオリジナルを撮り直す、監督の人選。

Bart Freundlich監督。代表作がCatherine Zeta-Jones主演「理想の彼氏」だけ、と言う凡庸な演出しか見た事が無い。しかし長編デビュー作「家族という名の他人」で見せた脚本力は悪く無く、プロデューサーと監督は「人間の弱さ」を、どうフォーカスするか検討を重ねる。世界中で評価された名作を、駄作プロデューサーとポンコツ監督が手掛ける事に成るが、ハリウッドでは大きな期待を持って迎えられた。その理由は・・・。

Julianne Moore、今年の12月で61歳!。私も好きなハリウッドを代表するオスカー女優。オリジナルを観て「是非、主演をやりたい!」と激しく熱望。買い付けに回るプロデューサーの中から、懇意にしてたJoel B. Michaelsに「私も応援するから絶対に落札する様に」ほゞ命令口調で厳命。リメイク権を獲得すると直ぐに自分が最も信頼する脚本家に任せる、そうFreundlich監督、旦那に。

Mooreと10歳年下の監督はデビュー作「家族という名の他人」で知り合い結婚。David Duchovny主演のTVシーズン「カリフォルニケーション」高視聴率で、嫁も鼻が高い。が、長編映画で代表作に乏しい旦那の尻を叩く意味を込めて、これ以上ない素材を提供する。監督は主演の「性」をリバースする事で、オリジナルとは違うテイストの作品に仕上げるべく、10年と言う長い月日を掛けて脚本を仕上げた。それを見たMooreは「これならイケるわ」と約束通り自ら製作も兼ね、撮影がスタートする。

何より共演する女優選びが大事なのは、彼女が一番良く分ってる。実質彼女がプロデューサーを務め、流石の人脈で選ばれたのがドイツを代表する国際派女優、レビュー済「ザ・オペラティブ」Diane Kruger。完璧な人選だったが、彼女がドイツの大作ドラマとスケジュールの競合の為、惜しくも降板してしまう。その代打がMichelle Williamsなのだから恐れ入った「ワンダーストラック」で共演歴が有るとは言え 並みのプロデューサーには不可能な抜擢。彼女に合わせて脚本も手直しされ作品は完成。Mooreはオリジナルの良さを損なわず、登場人物の洞察と人から得る喜びに軸足を置いて製作したと、満足そうだった。

2大女優の共演で満足出来るキャスティングだが、オリジナルをご覧の方はお分かりの通り、娘のグレイス役は重要なキーパーソン。オーディションで選ばれたのがAbby Quinn。「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」出演歴の有る彼女だが、当初からMooreが、独特の存在感を気に入りキャストに加わる。骨太のキャストで、Mooreが描きたかった女性として屹立する舞台は整った。今回は守勢に回った(笑)、夫役Billy Crudupの抑揚の効いた演技も手放しで褒めたい。

劇場で思った事は「オリジナルを観た人にこそ観て欲しい作品」で有る事。オリジナルの僅かな瑕疵として、なぜインドの孤児に尽してるのか?と言う細やかな疑問が、スリラー派の私は残像に残る。この点はMooreも感じた様で、ハリウッドらしい簡潔な説明で解り易く成ってる。性別を逆転させた事で感じるギャップ、と言うかMooreが支援する本当の理由も、一見でも丁寧に分り易く作られてる。すると観客はニューヨークの風景とか、ハリウッドらしいテイストを安心して楽しめる好循環まで生み出す。

リメイク版の良さはハリウッドらしいプロダクション。担当したGrace Yunは、オカルト・スリラーの最高峰「ヘレディタリー/継承」でも優れたマネージメントを見せ、私達を異世界へ誘った。本作でもニューヨークらしいスペクタキュラー。主人公の邸宅やホテルからの眺めはデンマーク版では実現不可能、映画的な良さに溢れてる。女優同士の火花散る演技合戦に、華を添えるアクセント。女性を最優先したヴィジュアル・センスの賜物。

本作はアメリカでの評判は真っ二つに割れてる。オーディエンスとしては「パッとしない平凡な作品」が大勢を占める。オリジナルが素晴らしいのは百も承知で、それに現代的な価値観の付随やアメリカ社会の現状を考慮して、母性の目線で語られる本作が、男性サイドにウケが悪いのはMooreも十分に自覚してるだろう。アカデミー外国語映画賞にノミニーされた名作を相手に、私は彼女の健闘を素直に称えたい。問題が有るとしたら予想通り夫で監督の凡庸な演出。リメイクだから駄作、では無いと言えるだけの価値は有る。

忸怩たる想いや苦悩を映した純粋なヒューマン・ドラマ。是非、全ての女性に見て欲しい。

言い忘れた、監督よりポンコツのキノフィルムズ。日本へ招聘したのはお手柄だが、何だこの邦題は。安いC級スリラーみたいなタイトル付けやがって、小学生の作文かよ「アフター・ザ・ウェディング」そのままで良いんだよ、全く(怒)。
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