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一人っ子の国のikarushのレビュー・感想・評価

一人っ子の国(2019年製作の映画)
4.0
一人っ子政策直前に生まれ中国の農村部で生まれ育った女性監督が、自ら取材をして綴ったドキュメンタリー映画。
監督自らのコメントはTEDにて6分程度の動画で聞けるので、映画と合わせて彼女の立場やメッセージを聞いておくと良いかもしれない。

ナンフー・ワン: 一人っ子政策の下で育つということ | TED Talk
https://www.ted.com/talks/nanfu_wang_what_it_was_like_to_grow_up_under_china_s_one_child_policy?language=ja#t-344661

それで作品を見て思ったのは、立場や置かれた環境・教養などによって印象や意見は変わってくるのだという事。
作品内で語られているのは、子を取り上げられたり不遇な措置を講じられた親世代は「仕方なかったが、政策は間違いではない」と声をそろえて言っている事。

ミレニアル世代であり、アメリカ移住するなどして「自由」で「人間の尊厳」を大切にする欧米文化に強く感化されたであろう女性監督側からすれば、一人っ子政策をプロバガンダとして推し進めた共産党政権は悪者だとする社会通念みたいなものを感じられるが、当事者である親世代、特に貧困化が顕著な農村部の人間からすれば「今日食べられる最低限の食事が、生まれてきた子供のためになくなってしまう」ような貧困問題に直面しており、その飢饉的状況を回避した一人っ子政策は「ツライが当時は正しい政策だった」とし(監督と同世代の者との)意見の相違がみられる。

以前別のドキュメンタリー映画で、1960年代インドネシアで100万人以上が犠牲となった事件について語られた「アクト・オブ・キリング」と「ルック・オブ・サイレンス」というものを見た事があるが、犠牲者側の意見では「自国の汚点であり恥、ぬぐい切れない悲しい出来事」という意見があるものの、事件を起こし遂行した当事者側やその周囲の人間は「自分の行為に誇りを持っている」という真逆の見解を伝えている。

今作品の締めくくりとして、今後中国でも日本を含む他の先進国同様に人口の逆三角形化が起こり、少ない子供で多くの親世代を支える超高齢社会が来るとして出産を奨励する政策を執っている事を皮肉っているが、目先の幸福ではなく数十年先の未来の幸福を見据えた政策を唱えて世論を黙らせられるカリスマや、世襲のような一族支配でもない限り、今の幸福を得ることが常に重視して当然だよなと感じてしまう。
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