純

マリッジ・ストーリーの純のレビュー・感想・評価

マリッジ・ストーリー(2019年製作の映画)
4.6
相手を好きな気持ちは、日常に散りばめられている。夜中に子どもが起こしに来ても大歓迎なところがすてき。歯に食べ物がついているときの指摘がさりげないのが長所。チャーリーもニコールも愛情深い声色が本当にあたたかくて、最初の演出ですでに切なくなってしまったな。

裁判では中心に居るはずのふたりが置いてけぼりで、ふたりが交わし合うのは憎しみよりも虚しさ。相手が苦しむことを知っていて、それでも尚、「何かを失うかもしれない」怖さに負けて、相手に傷をつけようとする。でもやっぱりいざとなると苦しくて。相手のこんな涙、噛み締める唇、何も満足することなんてないのに。

出会ってすぐに恋したふたりが、また相手に違うかたちで恋することはなくても、チャーリーとニコールという男女の隙間には、今まで知ることもなかった愛が確かに育まれ、その姿を潜めているのだろうと思う。そんな救い、密やかな香りがただようハロウィンの日。投げつけた刃も、重すぎる鎧も、ほんの少しの勇気で捨ててしまえば、ああ、こんなにも軽やかな今日がやってくるのね。

観賞後、タイトルだけで涙が出そうになる映画だった。これは皮肉でも中傷でもなく、確かに結婚を描いたひとつの日常。分かり合う日が果てしなく遠くても、そんな日が来なくても、わたしはあなたとあなたとの日々を、ずっと愛していくでしょう。
純