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マリッジ・ストーリーの教授のレビュー・感想・評価

マリッジ・ストーリー(2019年製作の映画)
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誰もそこまでの悪人じゃない、どちらかと言えば善人である男と女の「離婚」という出来事を通じて、個人を取り巻く社会であったり、性差であったり、国や土地柄など「生活」の根源を映し出した傑作。

「夫婦の終わり」を描いた作品はひとつのジャンルとも言えるし、特に「クレイマー・クレイマー」にも概ね似ているが、本作はさらに情報量や作劇世界の広さや深さが段違いである。

ニューヨークとロサンゼルス、という二大都市の価値観の分断。男女の分断。訴訟社会の分断。親子の分断。当事者同士で「話し合う」ことの難しさと、第三者(特に法的な代理人)の介入の難しさ。
最終的にすべてを「腹を割って」話し泣きながら吐露したとて、ダメなものはダメという難しさ。

結局は片方が勝者になり、勝者がいれば敗者も生まれる。手に入れたものがあれば失うものもある。
そこに対して力点がどちらかに傾くだけで、状況が変化していくだけで、実は何も失ってはいないし、変わってもいないのではないか、とも言える一見地味なストーリーをコミカルに描くことで味わい深さを引き立てている。

何よりアダム・ドライバー、スカーレット・ヨハンソンどちらのキャラクターにも基本的には非常に賢く、また感受性が豊かで、気遣いを忘れない基本的には「善人」であり他者に対して充分に寛容な人間であるにも関わらず、離婚するしかないという作劇が見事であるし、またそのニュアンスや説得力を与える演技に唸ってしまう。

全編にわたって、とにかく面白いし、飽きさせずにこれだけユーモラスに、だけど悲しみも感じさせてくれる作品はなかなかない。
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