ーcoyolyー

マリッジ・ストーリーのーcoyolyーのレビュー・感想・評価

マリッジ・ストーリー(2019年製作の映画)
4.2
「クレイマー・クレイマー」を観終わった勢いで今こそ観るべき時が来た!と即手を出しました「マリッジ・ストーリー」。「ジョーカー」が「タクシードライバー」リブートなら「マリッジ・ストーリー」もやはり想像以上に「クレイマー・クレイマー」リブートでした!「ジョーカー」のタイムカードが「タクシードライバー」からそのまま来てるレベルで「マリッジ・ストーリー」の子供の淹れたコーヒーはそのまま「クレイマー・クレイマー」から来てた。

2010年代にアップデートしなければならない意味も両作品それぞれ切実にあるんだけど、この場合はメリル・ストリープのキャラクターは何の手心も加えずスカーレット・ヨハンソンに引き継がれてるのに、ダスティン・ホフマンとアダム・ドライバーは表面的な描かれ方はだいぶ違った。これが40年で我々が歩みを進めた部分です、とよくわかる。ただ、人間性の本質的な部分は全く一緒なのでそれが社会の圧力により見えにくくなってるだけでもあるんですが。

「クレイマー・クレイマー」がこうやってリブートされた理由は、その男性をめぐる社会状況の変化と、「クレイマー・クレイマー」で描かれなかったメリル・ストリープのカリフォルニアでの成長譚を丁寧に描くためだったんじゃないかと思いました。舞台がLAとNYである必然性はそこです。

あとこの夫婦、またしてもソフィア・コッポラとスパイク・ジョーンズのエッセンスも入れてないかな。ニコールのLAの芸能一家出身でチャーリー(「クレイマー・クレイマー」にもチャーリーはよく出てきた名前だったね)が田舎の一般家庭出身設定とかはそれも鑑みてじゃないかなと。
そして、スカヨハ様はソフィア周辺の関係人物とかこういう映画には出るのにソフィア作品にガッツリ絡むのが「ロスト・イン・トランスレーション」以来なくて、キルスティン・ダンストと対照的というかソフィア何かあったのかな?というかむしろスパイクと何かあったのかな?と穿ってしまう…

「クレイマー・クレイマー」あの男に優しく描きすぎてて気持ち悪かったんですよ。あの男が搾取していたものが見えにくくて。その点で「マリッジ・ストーリー」は搾取される妻・搾取する夫を気付きやすく描いてましたね。ただあの夫がラストを迎えても自分のジャイアニズムに気づいてないのは一緒なんだけど。お前らそういうとこだぞ。どれだけ妻が泥を被って支えていたか気づくのはもう少し年単位で必要になるんですかね、気づいた時には全て手遅れですけどね。自分の才能だと思っていたものの大半は妻の才能だったと分かったら彼らは自己崩壊するんだろうか(スパイク・ジョーンズはどうだったのだろ?)

愛と共依存の境目は難しいのだけど、この2人の喧嘩はものすごく身に覚えがあってしんどかった。言いたいだけ言っていきなり許しを乞う男、そこに優しく接する女、もう痛々しい。それ完全に共依存だからニコール逃げてってすごく思う。あの男は自分の思い通りにコントロールできなきゃまた同じことを繰り返すよ。あの謝罪は自分が言ったことの本当の意味をわかってるんじゃない、世間的なそれは許されないという自分の部分をモロ出しにしちゃって、あ、やべ!と思って反射的に謝ってるだけだ。本当の問題に気づいてないから改心もしません。本当の問題からは目を逸らし続ける関わり続けたら危険な人間です。やらかした行為の横暴さじゃなくその横暴さを露骨に晒したことを謝ってるだけなので、しくじったもっと巧妙にやらないと他人を欺けない、という反省なだけですよ。

ニコール、母親が周囲を自分の理想通りに動かしたい毒母で、その毒母が夫と似たもの同士で仲良くて(でもその仲良さも表面的な薄っぺらいものだとチャーリーが激昂した時にわかる)、この親からの支配から抜け出すために同じタイプの支配者掴んじゃってる典型的な何かで、ダイレクトに食らっちゃった。彼女は何もわがままじゃないんだけど、わがまま放題の母親なり夫なりに「お前はわがままだ」と言われ続けて洗脳されて自尊心が損なわれていくの、本当によくあることだから、完全にそれは私は他人事じゃないから、「この家からも早く出なよ」とすごく祈った。ああいう外面の人当たりの良さで反抗する娘を悪者に仕立て上げるのキッツいっすよね。学習性無気力身についちゃいますよね。彼女の才能を搾取し続けた母と配偶者がいて、笑顔で耐え抜いて美味しい部分は支配者に上納し続けて、全部自分が悪いで済ませたら丸く収まるんだ、と言い聞かせてきて、よくここまで頑張ったと泣けてきちゃうわ。そんな彼女が変わっていく手助けをするローラ・ダーンの弁護士の配置も上手いですね。ニコールが自信を取り戻していく過程に気づかず、自分が思っていることは彼女も思っていることと拡大解釈しちゃってて、その思考がまずいと1ミクロンも気づいてないチャーリーの愚かさがちゃんと愚かに見える撮り方されてたのはホッとしました。こういう我々の戦いの40年の蓄積嬉しいね。

あ、チャーリーが依頼した(無能気味の)弁護士が「ザ・ホワイトハウス」のヴィニック共和党大統領候補で私はすっげえ高まったです。ヴィニック、民主党員が思い描く理想の共和党員でカリフォルニア選出だったもんなー、カリフォルニア訛りでずっと喋ってるのが懐かしくてよかった。


とにかく家庭内の搾取の構図をリアルに描いて、犠牲者として生きるのをやめようと努力した結果その呪縛から主人公の女性が解放されるストーリーとして「クレイマー・クレイマー」が作り直されたのが本当によくって、メリル・ストリープがあのまま舞い戻ってたら鶴の恩返し並に死ぬまで搾取され続けるかもしれなくて、でも40年経ったスカーレット・ヨハンソンはもうあの扉は開かない、と完全に吹っ切って自分の才能を存分に発揮して自分の足でしっかり人生を踏み出していて、そういう女性像でラストを締めくくったのこの時代のメッセージとして非常に大事。また世の中が進歩して今度は40年後に「マリッジ・ストーリー」リブートかけなきゃ、となった時にどこら辺の感性が古びているか今の私にはわからないから、それを観ることが楽しみ。男が劇的に変わっていればいいな。

でもさ、この映画観て「結婚っていいな」と思った人って一体何観てんの?一方的に搾取されてる結婚だったのにいいなと思えるのは搾取する側の視点になるはずなんだけど、それグロテスクじゃない?それとも完全に他人事だと思って見ているだけなのかな。
私、結婚がひたすら恐ろしくなるだけだったのに。冒頭の手紙、あんな内容になってるの、支配的なダメなところに向き合うと自我も生活も崩壊してしまうから必死に目を逸らしてる精神的DV被害者の奴隷根性でしかないのにね…盲目にならないと暮らせないから生きる力を削いで削いで自分から洗脳ハマってるだけだからあれ…身に覚えがありすぎてちょっともう自分の人を見る目が信用できないって副作用から未だに抜け出せてないです私。共依存で削がれたものって傷跡が本当深すぎて、親との関係でそうなってるから他の人間ともそうなってるの、他人が演じてると外から見れるじゃん、私こんなんだったのか…って心底ゾッとしました、恋愛復帰できない最大の理由これ。不倫正当化する男の姿とか見てそいつにも、見る目のない自分にも失望したくないんですわ。最後通牒突きつけられて初めて気づいても取り返しつかないからな。宣戦布告されてから復縁しようと動くの本当惨めだからやめた方がいいよ。そこまでに何度もあったチャンスを悉く潰したのはお前だよ。
ーcoyolyー

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