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完全な候補者のpherimのレビュー・感想・評価

完全な候補者(2019年製作の映画)
3.3
サウジアラビアの女医マリアムは、永遠に終わらない病院前の道路工事へ業を煮やし地元市議へ立候補する。女医より男性看護師の診断が信用される旧弊のもと彼女を阻む壁とその向こう側へ覗く希望を、『少女は自転車に乗って』のハイファ・アル=マンスール監督が活写する。

『完全な候補者』の主人公名マリアムは、マリアのアラビア名。聖母イメージの援用とも。本作序盤で感動的なのは、マリアムが自ら車を運転し通勤している場面。女性が自転車に乗ることさえ不道徳に見られる様を描いた『少女は自転車に乗って』の監督作だけに、このさりげない一幕が熱い。

 『少女は自転車に乗って』:https://twitter.com/pherim/status/484115096273043457

なお主人公の父親はウード奏者で、属す楽団がテロの脅迫に怯える光景も描かれ印象深い。イスラームや海挟むインド文化圏、さらに上座部仏教圏での舞楽蔑視から欧州ロマの苦悶まで、音楽への抑圧の歴史に思い馳せさせられる一幕。
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