Aoi

娘は戦場で生まれたのAoiのレビュー・感想・評価

娘は戦場で生まれた(2019年製作の映画)
4.0
2016年、アサド政権の包囲が差し迫る中、アレッポで生まれた女の子サマ。娘のためにジャーナリストの母であるワアドがカメラを回し続けた4年間のドキュメンタリー。ナレーション吹替、ダイジェスト版で鑑賞。



この映像作品を見られていることがものすごい奇跡なのかもしれない。


空爆が絶えず響き渡り、建物の壁はいたるところ崩壊している。ブルーシートに覆われた多数の遺体。病院の床には血飛沫が広がり、生と死の狭間で今まさに彷徨っている人間が映し出される。戦争の非情さ、緊迫感を物語るショッキングな映像の数々だ。


しかし、この作品は過酷な状況下でもあきらめない人々の勇気、人間の生命力の強さも教えてくれる。

志を共にする男性と結婚し、命を授かり出産するーー
一人の女性としての幸せが、彼女の眼差しで切り撮る映像からありありと感じられる。
信念を貫き通す覚悟をしている一方で、母親として娘を守り抜くことができるのかという不安と葛藤も描かれる。


どんどん瓦礫と化していく街に残り続け、独裁政権に抗い続けたアレッポ市民の勇姿。

次に命を落とすのは自分かもしれないと理解しながら、未来へ希望を持ち目を輝かせるたくましい子どもたち。

病院が爆破され、最後の病院として数百人の傷病者が運び込まれる過酷な状況になっても、目の前の命と向き合い続けたハムザ。彼が唯一涙を流した瞬間は忘れられなかった。



何らかの理由で虐げられてきた女性が、同じ目に遭わないようにと、母から娘へ託す思いが強いのはこの作品にも共通しているなと思った。


たとえ遠く離れた異国の地でも、爆撃機もミサイルもない空が広がる日を待ち望むばかりだ。
Aoi

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