つかれぐま

娘は戦場で生まれたのつかれぐまのレビュー・感想・評価

娘は戦場で生まれた(2019年製作の映画)
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最高のジャーナリストは、
最低の母親だった。

シリアの内戦。最後まで政府に抵抗を続けた医師とジャーナリスト(本作の監督)のカップルとそこで生まれた娘が中心のドキュメンタリー。

医師は同志たちの命を救い、ジャーナリストはそんな革命を克明に記録する。序盤は普通の反戦ドキュメンタリーだ。しかし二人の間に愛娘サマが生まれてからは、ジャーナリストと母親という二つの立場に苛まれ、娘を危険に晒すことをなかば正当化していくという狂気の記録へ変容。ここが本作の非凡なところ。

監督でもある主人公のモノローグを聞くと、最後までその狂気を自覚していなかった(自分たちは正しかった)体で終わる。しかし映像は第三者の編集によって、彼女が母親として正しかったのかどうか?それを見る者にも問いかけるような作り。このミスマッチングが、主人公の狂気はシリア脱出後の今でも続いているんじゃないかと思わせる怖さだ。

原題は「サマのために」。
なんと皮肉なタイトルか。こんな狂気の念に頼らずには、空爆の恐怖に耐えられなかったことは想像できる。そうまでして残した映像は本当に凄まじい。今でも無自覚かはさておき、結果的に自分が最低の母親だったことまでさらけ出している最高のジャーナリスト。その狂気の記録。