叡福寺清子

娘は戦場で生まれたの叡福寺清子のレビュー・感想・評価

娘は戦場で生まれた(2019年製作の映画)
3.6
反政府活動殲滅の為にアサド政権が,実施したアレッポ封鎖.アレッポ大学生だったワアドさんは,学内抗議からアレッポ陥落までを撮影し続け,その最中にハムザ医師と出会い結婚,そして空を意味するサマちゃんを出産します.本作はその映像をサマちゃんに残す記録としてまとめたもの.マッサウルヘイル三遊亭呼延灼です.

流血著しい子供達,治療に及ぶも失われる命,両手を縛られ頭部を銃弾で撃ち抜かれた数多の遺体.それを映像を観たら,アサド政権は鬼畜かと思うは必定でしょう.私だってそうでした.それが映像のちからです.でも作品は,反政府側の視点からのみ語られています.ですので,ワアドさんの主張をそのまま鵜呑みにすることはできません.実際反政府活動には,あのアルカイダやISISが参加していたそうですね.もちろんワアドさんはあくまで一介のジャーナリストであって,テロ組織とはなんら関わりはございません.その視線は市井の人であり母親のそれであります.ですが反政府活動という全体像をハムザさん一人の視点のみで語ることは控えるべきでしょう.繰り返しますが空爆によって無辜の民が命を落としたことは非難されるべきだし,のこのこと他国の事に介入して空爆を繰り返すロシアは国際犯罪として断罪されてもおかしくはございません.それと一方の視点からのみ捉える事は別問題.
ワアドさんかハムザ医師のどちらの地元か忘れましたが,帰省したおりご両親はせめてサマちゃんだけはこっちに預けたらと救いの手を差し伸べます.ですがワアドさんは離れ離れは考えられないとサマちゃんを連れてアレッポに戻ります.危険が常にあると理解しながら.それは母親の深い愛情と捉えることも,単なる親のエゴと謗ることもできましょう.ですので,本作におけるワアドさんの思想に共感することは,私はございません.そしてスコアはあくまで映像と,撮影を継続し続けたことと,それを世に知らしめた事に対する点数とお考えください.

なお,毎日空爆に怯え,数多の友人の死を見届けきたであろう少年の心に癒やしをもたらしたワンピースの力には感銘いたしました(65分あたりで少年が持っていたのが紙で作ったゴーイング・メリー号でした).