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娘は戦場で生まれたのLudovicoMedのレビュー・感想・評価

娘は戦場で生まれた(2019年製作の映画)
4.5
原題『For Sama』= "サマ"へ "サマ"のために
サマ、覚えているかしら あなたのために撮り続けたの 理解してほしいパパとママの決断を。


SNS時代の革命闘争ことシリア内戦を戦場カメラマンばりに収めたドキュメンタリーですが、これが前代未聞のタイムカプセルシネマを一般公開した衝撃作でした。

"サマ"はタイトル通り、ジャーナリスト兼監督であるワアド・アル・カデブの娘であり、現在進行中の戦地シリアで産まれた子だ。『For Sama』と綴られたまるで家族アルバムの表紙の様なタイトルから、娘の成長日記的な側面とともに、地獄の戦場"アレッポ"の実態を目撃する。

本作はダンケルクや1917では味わえない戦場の空気をワアドの手持ちカメラほか、ドローンや監視カメラの映像を駆使し、街の空撮(マクロ)と固定カメラ(ミクロ)の視点の使い分けで、想像を絶するような残酷風景を映し出し、瓦礫の山と化したアレッポから、空爆の恐怖を物語る。
予告なしに次々投下される爆破音でスクリーン越しでもビビってしまう観客を横目に、サマは表情一つ変えず目の前のスマホという不思議なツールに興味津々なのだ。そう、サマにはあまりに日常すぎ、やかましい戦争はもはやルーティンライフとなってしまったのです。

しかしサマと同世代の子が死体となって運ばれ、重傷を負った妊婦は止む無く帝王切開で救い出そうとするショッキングな光景に唖然とする。
これでもかと言うほどの地獄を写し出すも、無邪気に『遊び』を謳歌するサマにワアドはひたすら呼びかける。

やがてサマはカメラを手に取り、自らの姿を写そうとする。まるで「私は今ここで、アレッポの街で生きている。みんな観て」と訴えるかのように、カメラの画面を支配する。
"死"のサイクルでしかない戦争を、逆にその瞬間生き抜いた"生"の輝きとして、人生の走馬灯にアーカイブしようとする最強の人生賛歌をぶつけてくるのだ。

果たして未来のサマがこの映像を見返した時、何を感じるだろうか?

本作は、全世界に一般公開されたタイムカプセルであり、何十年後かに大人になったサマがそれを開く瞬間こそ、この映画が最大の役割を果たす時だ。
そして、それを想像しながら鑑賞できる我々には、味わったことのないような強烈な体験でした。
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