ryosuke

呪いの館のryosukeのレビュー・感想・評価

呪いの館(1966年製作の映画)
4.6
血に濡れた突起のストップモーションに到る悲劇によって、瞬間的に観客の期待を高めてくれる良いオープニング。掴みはばっちり。観客の目に焼き付いたこのストップモーションは、怯える宿屋の娘を捉えるショットの手前に燭台の突起物が映った瞬間に邪悪な予感を惹起することになる。
宿屋のシーンで、よそ者への敵意を隠そうともしない住民たちがぴったりと動きを停止してカメラの方を見つめる描写に「サタンタンゴ」のワンシーンを思い出す。
迷信に支配された田舎を、都会から来たインテリが調査するというのは「マッキラー」と同種の設定であり、そのよそ者が即座に禁忌を犯すのも「血ぬられた墓標」と同様だ。不気味な人形は「サスペリア PART2」を思い出させるし、一連のイタリア製ホラーに通底する精神性が感じられる。
倒れる甲冑が悪霊の通り道を示すのも、不気味な馬車の登場も「血ぬられた墓標」と同じく。この馬の不気味さについては、後々馬が少女を踏みつけ悲劇の端緒を作ったことが明らかになる。
禿頭の村長の面も不気味で良い。こういう顔の人たくさん集めてくるのが大事よね。
本作では青を基調としているバーヴァらしい凝った画作りは当然見事で、煙の充満する不気味な村の風景は隅々までバーヴァ美学に貫かれており、狭い路地の不穏な空気にテンションが上がる。パン、トラッキングによって画面がゆっくりと動くことで、次は一体何がフレームインしてくるのかと観客の目を釘付けにする。
カメラがブランコのように揺れながらズームイン/アウトを繰り返す墓地のショットに呆気にとられていると、画面上から正にブランコがフレームインしてくる。このショットが白眉。
怪異が起こる時の、低音の響きが印象的な音楽も素敵で隙がない。
しかし螺旋階段って映画映えするよなあ。本作ではその形状は止まらない死の連鎖を思わせる。人物が下を覗き込んだ際の目線ショットがズームイン/アウトを繰り返すのは、ヒッチコック「めまい」であろう。本作では画面がぐるぐる回転したりもする。
鞠を持った少女メリッサの描写は、ラング「M」の引用であるという評があるようだが、言われてみると次々にドアが閉まっていく館も「メトロポリス」のロートヴァング博士宅のように思えてくる。当然ドイツ表現主義はバーヴァのスタイルに影響を与えているだろうし。このシーンのドッペルゲンガー無限ループが視覚的に面白い。
決着はちょっと呆気ない気もするが、自らの名が刻まれた棺を見てしまう恐ろしさ、ヒロインと主人公が本作のストーリーにおいて死の象徴となっていた窓に阻まれる描写など、最後の最後までみっちりと見せ場を詰め込んだ素晴らしい傑作だった。
ryosuke

ryosuke