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痛くない死に方のmuraのレビュー・感想・評価

痛くない死に方(2019年製作の映画)
4.3
湯布院映画祭。今年は夏ではなく規模を縮小して秋に開催。ゲストは、最近は「イケメン」として人気の柄本佑。義父の奥田瑛二とともに。

在宅医療に従事する医師・河田。深夜に呼びだされることも多く、嫌気がさした妻とは離婚、やる気もおこらない。あるとき、末期ガン患者を担当することになるが、深く関わることもせず、結局患者は苦しみながら死んでいく。家族からは「来てくれない医者を選んでしまった心が痛い」と責められる。河田は先輩医師の長野に相談し、長野のもとで働きはじめる。以後、河田は在宅医療と真摯に向き合うようになる…

実在の医者(長野)がおこなう在宅医療に基づく。尊厳死について注目する内容で、「リビング・ウィル」(尊厳死宣誓書)といった言葉も登場する。当然重い話となる。とくに前半は痛みをともないながら死んでいく患者の医療と介護について生々しく描くので気分も滅入るが、後半からは一転、朗らか、軽やかな雰囲気となる。それは2年が経ち、河田が見違えるほどに成長しているから。つまり河田の成長譚。

含蓄のある言葉がならぶ。在宅医療にのぞむにあたっての心構えといったものだが、なかなか勉強になる。

「カルテではなく患者本人をみろ」
「患者を苦しめているのは医者だ」
「ひとは枯れるように死んでいくべきだ」…

美談といえば美談、理想といえば理想。自分はどういった医療に頼り、どういった終末を迎えるのか…これを見たからといって答えは出ない。でも、今まで考えることがなかったこの問題に向き合わされたことは確か。その点では、『おくりびと』などよりはよほどリアルに「死」を感じさせる映画かと。

演出も、「美談」「理想」に終始するものではまったくなかった。とくに医療と介護の現実が生々しく描かれる前半部分が効いている。これはいい映画だと思う。
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