トラきち

誰がハマーショルドを殺したかのトラきちのレビュー・感想・評価

4.2
道路工事で穴を掘っていたら石油が噴き出した…というか、野球で送りバントをしたら当たりどころが良くてホームランになってしまった…というか、何を言いたいのかといいますと、世の中"瓢箪から駒"みたいなことがありますよね、ということ。で、今作がまさにそれ。ずっと楽しみにしていた作品。

ハマーショルドとは、スウェーデン出身の第二代国連事務総長。理想主義、博愛主義者でWW2後の民族自決の機運が高まる中、アフリカ新興国のために尽力していた。そのため旧宗主国の国々にとって彼は煙たい存在。1961年9月、動乱の停戦調停のためにコンゴへ向かおうとしていたハマーショルドを乗せたチャーター機が、ローデシア(現ザンビア)で墜落する。ハマーショルドを含む乗員全員が亡くなった。当時パイロットの操縦ミスと発表されたが、暗殺説もささやかれた。この事故の真相を探るドキュメンタリー作品。

監督たちは事故現場を訪ね、解決の手がかりが残されていないか探して回る。地元の人たちによると、事故が起きた夜は空に閃光が走り、大きな音がしたという。チャーター機は撃墜された可能性が高いことが分かる。それにも関わらず、事故当時に墜落機は詳細に調べられず、うやむやのまま済まされてしまった。監督たちは事故現場にまだ埋れているかもしれないチャーター機の残骸を掘り出そうと試みるが、徒労に終わってしまう。調査は紆余曲折するが、そんな中重要な手がかりとなるのが「南アフリカ真実和解委員会」が残した資料だった。アパルトヘイトに関する数々の犯罪を記録した資料の中に、「南アフリカ海洋研究所」(通称サイマー)という名前が見つかる。実はこの「サイマー」は民兵組織、諜報機関であり、ハマーショルド暗殺計画を企てていたことが明るみになる。「サイマー」とは一体どんな組織だったのか?調べていくうちに「サイマー」の恐るべき実態が判明する。「サイマー」は白人至上主義団体で、外国政府からの支援で運営されていた。アフリカ各国の独立運動に協力的だったハマーショルドは、白人社会にとっては目障りな存在だった。ハマーショルドが乗っていたチャーター機はやはり撃墜されていたのだ。この事件に「サイマー」は深く関わっていたようなのである。
秘密結社「サイマー」の恐ろしさは、それだけではなかった。アフリカ各地に診療所が設けられ、エイズ予防ワクチンと称して、実はエイズウイルスに汚染されていたワクチンを黒人たちに接種していたというのだ。黒人をこの世から絶滅させるための生物兵器として、エイズウイルスを利用していたというのである!

大体、ドキュメンタリーの取材をするに当たって製作者としてはある程度の"落としどころ"を想定して始めると思う。だが時としてその取材の最中、想定を遥かに越えた事象に出くわしてしまう事もある。そんな時に問われるのが自らの真摯さ、立ち位置となるのではないか。今作はおそらくワザとであると思うが、語り口が芝居がかっていて、ちょっと妖しさが漂っている。JFK暗殺事件以降、世界中でさまざまな陰謀論が語られるようになった。だが陰謀論をエンターテイメントではなく、ジャーナリスティックな形でまとめることは容易ではない。今作でも物証というものがほぼ無く、証言しかなかった。例え物証を見つけたとしても、その信憑性を証明することはさらに難しい。事件の内情を知るという関係者が名乗り出ても、どうも胡散臭く聞こえてしまう。陰謀論を真剣に探れば探るほど、闇が広がり、全体像がぼやけてしまう。そして迂闊に発表しようものならトンデモ論者扱いされ、世間の信頼を失ってしまうことになる。だから逆にそのような妖しい語り口を採用したのだろうと思う。

"藪をつついたらアナコンダが出た"ような今作は、観る側も陰謀論という名の底なし沼にずぶずぶとはまってしまうことになる。
ハマーショルドには、死後ノーベル平和賞が贈られた。これは極めて異例な事であった。