ヨーク

劇場版 SHIROBAKOのヨークのレビュー・感想・評価

劇場版 SHIROBAKO(2020年製作の映画)
3.5
まぁ面白いは面白かったのだが、特に絶賛するほどというわけでもなく何となくノリきれないところもあり微妙といえば微妙な面白さでした。ちなみに俺はTV版も視聴済みですがそっちはかなり面白かったし好きだったのでちょっと期待のハードルが高かったのも本作をイマイチと思う理由の一つだったかもしれない。そうでもないかもしれない。
さて本作はざっくり一言で説明するならアニメ制作の現場を描いた映画であります。TV版の頃から主人公の宮森は制作進行として働いていて、その宮森がアニメ制作において様々な人と出会ったりぶつかったり和解したりしながらアニメを作っていくという物語ですね。
TV版で面白かったのは宮森という主人公を置きながらもアニメ制作に関わる様々な登場人物が出てきたことで、そういう人たちとの群像劇を織りなしていたのが非常に面白かった。全24話をかけて監督やプロデューサーや作画マンといった役職はもちろん背景美術の人がクローズアップされる回とかもあって面白かったんですよ。まぁ実際のアニメ業界の人から見たら、多分かなりファンタジーというか主人公たちに都合の良い展開になってたり、実際のアニメ業界もっと地獄だよ、というのはあるのだろうがアニメ制作というものに結構突っ込んで単に女の子がかわいいだけの作品ではなかったのが『SHIROBAKO』の良いところだと思います。まぁ女の子がかわいいだけの作品もそれはそれでいいんだけどさ。
で『劇場版SHIROBAKO』ですが、物語はTV版の4年後から始まる。宮森が勤める武蔵野アニメーションはある事件をきっかけに経営状態が悪化して今は細々と下請け業務で糊口をしのいでる状態であった。しかしそこで何やら色々と揉めていて一向に制作が始まらない劇場アニメの企画が転がり込んでくる。武蔵野アニメーションは起死回生を図るためにその劇場アニメの制作を請け負うが、その運命や如何に、というもの。
まぁそのプロットは別にいいと思う。よくある感じだけどそのベタなプロットをどう調理するかで料理人の腕が問われるし、様々な仕上がりの作品になるであろう。俺が本作をイマイチだと思ったのはまぁ一言で言えば逆境から一本のアニメ映画を作り上げていくという過程の演出やドラマの盛り上げ方がTV版とほとんど同じじゃん、ということなんですよ。色んな部署の腕利き職人たちが主人公の元に集まってきてくれて多少の衝突や葛藤がありつつもそれを乗り越えていくという群像劇でハッキリ言って新鮮味はなかった。上述したように本作は深夜アニメでありがちなかわいい女の子のキャラクター性を一番の売りとして押し出したような作品ではないのが面白いところだったんだけれど、2クールかけてTVでやったことを似たようなノリで一本の映画にしただけではちょっとインパクトに欠けるよなぁ、と思うんですよね。
だったらいっそのこと本作は完全に宮森の視点だけで描かれる彼女個人の物語とかでも良かったと思う。アニメ制作の全体像を描くことはTV版でやったんだから本作はその中で翻弄されて心身ともにズタボロになる宮森を徹底的に描いても良かったのではないかとも思うのだ。俺が本作の好きなシーンで宮森が夜の街で急に歌い出してミュージカル調になるシーンがあるんだけれど、そこをもっと掘り下げてエナジードリンク片手に疲労が限界を超えると現実と現実逃避の夢想の狭間のミュージカル空間で綱渡りする社畜戦士宮森みたいなのをもっと観たかった。肉体的にも精神的にもぶっ壊れていきながらも、それでもアニメ作るの楽しいよっていう作品を観たかったのです。別に過酷な労働条件下でも健気に頑張るようなブラック企業賛歌を観たかったわけではないが、個人がその目的や目標を達成するうえで圧し掛かってくる無理難題や解決困難な問題に対してどう折り合いをつけるのか、というところはもっと観たかったですね。何となくみんなが集まって協力したから上手くいきましたって感じではなぁ…と思います。みんなが集まって上手くいったというのも2クール分の積み重ねがあれば感慨ひとしおなんだけど映画一本の尺ではちょっとご都合展開に見えてしまう。
とまぁ文句の方が多い感想になってしまったがそれでも面白かったですよ。特に終盤の劇中劇のシーンでは水島監督の演出講座とでも言わんばかりのものが観れて面白かった。やっぱ水島監督のベースは俺が子供時代に見たシンエイ作品があるんだなぁ、と実感。ドラえもんも魔美もチンプイも俺の人格形成を担った作品だし何かそこは感慨深かったですね。あと劇場版クレしんのノリ。あの劇中劇のアクションはクレしんまんまで面白かったですよ。
何だかんだでアニメ業界を比較的リアルかつ俯瞰的に描いている作品というのはそんなにないと思うのでジャンル的な面白さはやっぱありますね。今ちょうどTVで『映像研には手を出すな!』というアニメをやっていて非常に面白いけれど、こっちはあくまで高校生のアニメ制作なので現代のアニメ業界でのお仕事モノとしての『SHIROBAKO』とはやっぱ別物なんですよね。なのでまた本作とは違った切り口での『SHIROBAKO』の続編やもしくは過去編なんかも観てみたいなぁと思うがどうなんでしょうね。
あと宮森が飲んでるシーンはもっと観たかった。そこはもっと観たかった。
ヨーク

ヨーク