ワンコ

Redのワンコのレビュー・感想・評価

Red(2020年製作の映画)
4.2
【日本人の色彩感覚と、女と男の物語のコラージュ】

作中に出てくる本は、谷崎潤一郎の「陰翳礼讃」だ。

それは、関東大震災の後、谷崎潤一郎が移り住んだ関西(確か、神戸だったかな?間違ってたらすみません)の家で、日本人の美意識について考察するようになり、西洋の合理的で、夜でもすごく明るい室内ではなく、もっと蝋燭や行燈のような炎の明るさと、その作り出す陰翳に美的感覚を見出そうとしたり、伝統工芸など他の様々な日本の芸術的な感性や色彩感覚にまで言及したエッセイのような作品だ。

僕は、ボロボロになるまで持ち運んで読んだこの文庫本が宝物だ。

ちょっと話は変わるが、その後しばらくして、谷崎潤一郎は、あの名作(まあ、僕が大好きなだけなのですが)「細雪」を執筆する。いとはん、とか、こいさん、とか船場言葉で呼び合うやつだ。
僕は、陰翳礼賛がなければ、細雪はなかったのではないかとさえ思うのです。

戻ります。
それで、この映画では当初、建築関係の仕事に従事しているという物語の流れで、この本がエッセンスとして使われたのかなと思っていた。

しかし、この映画は、実は古来から日本人に根差す色彩感覚を男女の物語とともに紡いでいることに気付く。

日本人の色彩感覚は、四つの色、「暗(くろ)い」、「碧(あお)い」、「白い」、「朱(あか)い」から構成されていたとされている。
夜の闇、夜が明けかけて少し青みがかった空、白い太陽の日差し、そして、朝夕焼けの色だ。
碧は緑も含み、朱は黄色もカバレッジしている。

水墨画のような白黒の雪国の世界。
僕は東北の出身だが、白い雪は何故か、黒以外の色を呑み込んでしまう。

山中の中で暖かい灯りを燈すドライブイン。
雪国の夜のドライブインの灯は、揺らめく行燈の明かりのようだ。
目の見えないドライブインの父親は何を示しているのか。

ボルボは紺。

塔子は要所で青いものを身につけていたようにも思う。
洋服もブラも。

鞍田と塔子は古いボルボで走り続ける。
昼も夜も、水墨画のような世界の中も、宵闇の中も、移ろう色の中をボルボで走り続ける。

そして、朝焼けを浴びて、生きましょうと…言うが…。

生きるとは、愛すること。
この映画のフライヤーにあるキャッチだ。

生きることは、愛すること。
鞍田が吐血した時、Redは血の色かと思った。
しかし、朝焼けに照らされる二人を見て、Redはこの日本人に根差した色なのだと。

生きようとする色なのだと思った。

そして、愛することは、情熱的な赤でもあった。

本当に苦しいほど人を愛さないと、生きてるという感覚を感じとることはできないのか。

物語全編に亘って、様々な場面で夏帆さんの演技が冴えてたと思う。

僕は、ちょっと示唆的で、現実感から少し距離を置いたような構成が気に入りました。

色彩とのコラージュなんて勝手な僕の想像です。

陰鬱礼賛と合わせてプラス0.5です。
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