Iri17

RedのIri17のネタバレレビュー・内容・結末

Red(2020年製作の映画)
2.7

このレビューはネタバレを含みます

noteに詳しく書いたので以下そのコピペです。



まずこの映画、吹雪の中電話ボックスで話す塔子の元に赤いスカーフ(?)が風に吹かれてくるシーンから始まる。そして、場面が変わり自宅でハンバーグを作る塔子、帰宅した夫は疲れているからと食べることを拒否し、義母の作った料理だけ口にする。夜はセックスはなしで、塔子にフェラだけさせて「よかったよ」と一言。そしてまたシーンが変わり、不倫相手妻夫木と車に乗っているシーンへ。ステレオからはジェフ・バックリィの「Hallelujah」が流れ、車はトンネルの中へ...
 
いや、分かりやす過ぎるよ!優しいけど妻の気持ちが理解できない独りよがりな夫との将来が見えず、若い時の不倫相手に逃げるという展開が!
 なんだか先の読める話だし、あんまり理解できない主人公で、中盤まで全然楽しめなかったのですが、終盤のとあるセリフでようやく伝えたかったであろうテーマの核心に到達するんですね。そこはすごくよかったのですが、あまりに遅過ぎるのでは?

この作品のタイトルはレッドなわけですが、赤は激情の色として知られています。ピーター・ウィアー監督の1975年のオーストラリアの映画に『ピクニックatハンギング・ロック』という作品があります。ハンギング・ロックという岩山へ遠足へ行った女学校の生徒のうちの3人と先生一人が、突然下着姿になり頂上まで登り、忽然と姿を消して二度と見つからなかったという実際にあった(と言われているがフィクション)事件を基にした作品です。

失踪した女生徒のうちの一人は後日発見されたものの、失踪した時の記憶を失っていました。敬虔なクリスチャンであるはずのその女生徒は、回復すると真っ赤な派手な服を着て「ヨーロッパに行く」と告げ、学校を去ってしまいます。この作品は女性性の自立と解放を描いており、そのことが女生徒の赤い服に象徴されているんです。なぜそのようなことが言えるかといえば、女学校の校長先生の部屋にフレデリック・レイトンが描いた「燃え上がる六月」という絵画が飾ってあることから推測できます。ラファエル前派の画家であるレイトンが「燃え上がる六月」の赤い服に女性の内側にある欲望や女性性の発露を象徴させたことは有名です。

このように赤は感情や欲望の色とされ、転じて抑圧された女性性や欲望の象徴として知られています。

つまり『Red レッド』という作品は、ジェンダーロールを押し付ける夫や子供を持つ責任感、上流家庭の家内として過ごさなければいけないという塔子の女性としての「個」の抑圧に対する戦いがテーマとして描かれている、描かれなければならないはずの作品です。しかし、それが上手く描かれているかと言われれば疑問が残りました。あくまで塔子は男に翻弄される女性のように描かれており、いかにも「男が理想とする」女性の奔放さを象徴する女性になってしまっているように感じました。三島監督が女性のあり方に縛られてしまっている方だからなのか、おっさんプロデューサーによって改変させられた結果なのかは分かりませんが、あまりに残念です。作品が本来持つべきテーマに到達する瞬間があり、その時にカタルシスが訪れるのですが、遅すぎます。

夏帆や妻夫木聡、間宮祥太朗の演技力と存在感のおかげでつまらなくはなかったですが、物足りない印象は拭えませんでしたね。

ちなみにこの作品で何度も流れるジェフ・バックリィの「Hallelujah」は名曲中の名曲なので是非聴いてみてください。30歳で溺死した伝説的なミュージシャン、ジェフ・バックリィの代表曲で、書いたのは2016年に亡くなった偉大な歌手で詩人のレナード・コーヘンです。旧約聖書の『サムエル記』に着想を得た素晴らしい歌詞ですが、『サムエル記』におけるダビデ王に象徴される男性の身勝手さが『Red レッド』のテーマと一致するのだと思います。
Iri17

Iri17