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マザーレス・ブルックリンのチェックメイトのレビュー・感想・評価

マザーレス・ブルックリン(2019年製作の映画)
4.2
この映画好きだ。
これは「アイリッシュマン」とまったく同時代だが違う世界のアメリカ裏面史として見ることができる。

そして監督・脚本・主演をこなしたエドワード・ノートンの入れ込み具合が伝わってくる。

1950年代の戦争の傷跡が人々の心にまだ残っている頃の、これから都市(あくまで白人の)を作るという野心ある政治家と踏み潰されるマイノリティの歴史を私立探偵が紐解いていくという物語。
原作はもっと現代の小説だったらしいが登場人物の人間性が物語の中で浮かないようノートンが時代を50年代に設定したという。
孤児院育ち、都市開発に絡む利権、都市計画優先の住宅政策によるスラム街つぶし、レイプ当たり前のレイシズム、出生の秘密、その謎解き方法までアナログで語るとき通奏底音のように流れるジャズをバックにフィルムノワールとしての雰囲気が楽しめる。

人によってはかったるいだろう。
尺が長いくせに結論は何なのかと。
これは結論を求める物語ではなくハードボイルドなのだ。
それが好きな人には楽しめる。

誰の助けも借りず金のためではないフランクへの友人としての恩義という感傷的な感情とタフに(基本叩かれてもめげないで酒の力を借りて)生きる孤独な男。
刑事や警察ではないから不正の追求が目的ではなくあくまで傍観者としてローズに寄り添える存在。
ただしあくまでベタな付き合いとは距離感を出す。
ライオネルのチック症も周囲に容易に理解してもらえずだからこそ白人なのに場末の黒人から被差別者として受容されるのに違和感がないのだ。
確かに尺は長いが単純化して展開をスピーディにするとノートンが表現したいハードボイルドとしてのけだるさ、主人公のどん詰まり感がでない。
もちろんスピーディなハードボイルドもあるがあくまでストーリー展開より人間的側面にこだわるハードボイルドだ。
だからあえて事件の本筋とは関係ない人間の描写がちょっとした内面性をあらわして面白い。
フランクの奥さんの振る舞いや同僚ダニーのリアクションなど。

ローズは一体どんな秘密があるのか、わかりかけたと思ったらまた謎が、という遅々として進まない展開に苛立ちを覚えるがそれもまた事件の展開より彼のやるせないながらもタフに(しぶとく)追いかける内面を描写したいがためと見る。

そして孤児院育ちで病気持ちのライオネルが弱くて殴られ翻弄されるが故に本来接点のない華々しい社会運動家ローズの出自による絶望感を受け止め慰めることができる。心から彼女に同情するライオネルの造形は無理がない。最後のローズとのツーショットに哀愁が漂う。

にしてももともと英米海軍の甲板用防寒着で50、60年代アメリカのヒッピーにも愛用されたピーコートをライオネルが普段着として愛用する設定も粋だ。時代設定がもっと古い「砲艦サンパブロ」でスティーブ・マックィーンが着こなしてたが彼は水兵だから必然的にピーコートになるが、それと同じくらいカッコイイ。今でいえば現場のドカジャンと同じような存在として着ていたコートなのだが機能オンリーのデザインが今でも古さを感じさせない。
将校用風の気持ちやや丈が長いピーコートがよく似合う。
ハンフリーボガートやエリオットグールドは背広姿だが、ライオネルはよりくだけながら同じ孤児院育ちのトニーやダニーよりも探偵然としない印象にしていると思った。
こういったディテールも楽しめる良いハードボイルドな映画だと思う。
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