netfilms

郵便配達は二度ベルを鳴らすのnetfilmsのレビュー・感想・評価

4.2
 イタリア北部を横断するトラックの車中、道はまだまだ整備されず、段差のある凸凹道をトラックは走る。ポー川沿いのレストラン「ドガナ」の前で停まると、運転手は「ガソリンをくれ」と喚き散らす。ガソリン・スタンド兼軽食堂の店主ブラガーナ(ファン・デ・ランダ)はゆっくりと外に出て来る。猛烈な喉の渇きを潤し、トラックの後ろ側に回った運転手は、干し草を積んだ荷台の上にジーノ(マッシモ・ジロッティ)を見つける。サスペンダーに白いTシャツを着た放浪者じみた男は悪びれもせず、軽食堂の中へ入り、ただ飯にありつこうとする。無人の店内、キッチンの奥からは美しい歌声が聞こえ、ジーノは吸い込まれるように中へ入る。そこにはブラガーナの歳の離れた美しい妻ジョヴァンナ(クララ・カラマイ)が厨房の上に腰掛け、マニキュアを塗っていた。その艶めいた姿にジーノは心奪われる。ただ飯をくらい、言いなりで働くジーノは狡猾にブラガーナを1時間外に連れ出し、ジョヴァンナにアプローチする。女は満たされた表情を浮かべながら、脂ぎった店主のブラガーナとの結婚を悔いる。数週間後、ジョヴァンナと駆け落ちを決意したジーノだったが、女は途中でへたり込み、地べたに座る。大声で名前を呼ぶジョヴァンナだが、ジーノの背中は徐々に遠くなって行く。

 フランスの巨匠ジャン・ルノワールの弟子として映画の世界へ入ったイタリアの貴族の三男ルキノ・ヴィスコンティの記念すべき長編処女作。当初イタリア人の作家ジョヴァンニ・ヴェルガの『グラミニヤの恋人』の映画化を模索していた若き日のヴィスコンティだったが、文化省の検閲により断念。今作はアメリカの小説家ジェームズ・M・ケインの同名小説をルノワールがヴィスコンティに猛烈に推薦したことから処女作となる。偶然ポー川付近の街にやって来た流れ者の男と、つまらない男との結婚に後悔の念を抱く若女将との激しい恋は燃え上がり、やがて一つの悪魔的な結論に達するのだが、後味の悪い結末に男は途端に精気を無くす。ひと1人死んでもまったく悪びれない悪女ジョヴァンナとは対照的に、前途洋洋だったはずの放浪者の神経症的な病巣が滲み、ただひたすら病む。死人の目に恐怖感すら感じる男に対し、女は大金を手にするまではこの街に留まろうと嘯く。同じく放浪者であるスペイン(エリオ・マルクッツォ)とのシンパシーと友情、そして裏切り。黒衣に身を染めたファム・ファタール然としたジョヴァンナに対し、白い衣装を纏ったコーラス・ガールのアニータ(ディーア・クリスティアーニ)の姿だけがジーノの唯一の逃げ場所となる。ファシスト体制下のイタリアにおいて、堕落した男女の犯罪映画を撮ったヴィスコンティは当局にもムッソリーニにも睨まれるが、全編ロケーション撮影を施した撮影スタイル、三角関係を巡る愛欲と官能のドラマは「ネオリアリズモ」誕生のきっかけとなり、後のヌーヴェルヴァーグに多大なる影響を与えた。
netfilms

netfilms